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柿手春三ゆかりの品寄託 三良坂出身の反戦画家 親族が平和美術館に

トラ描いた日章旗や絵画

 反戦画家として知られる三次市三良坂町出身の柿手春三(1909~93年)のおい、築山正さん(66)=大津市=が、父の故宏さんが軍に召集された際に贈られたトラを描いてある日章旗など柿手ゆかりの品や絵画計4点を、同町の三良坂平和美術館に寄託した。トラの墨絵は、ほとんど残っていない戦時中の柿手の絵の一つとみられる。築山さんは「建前を気にせず本音で生きる人だった」と思いをはせた。(石井千枝里)

 日章旗は縦68センチ、横100センチで、中央の日の丸にトラの絵と「春三」の名が記されている。周りの連署は、宏さんが通っていた東京第三師範学校の学校長や柿手の兄操六さんなど78人分で、「祈武運長久」「必勝」などの言葉が並ぶ。

 柿手は画家を志し、操六さんを頼って28年に上京。豊島区周辺にあったアトリエ村「池袋モンパルナス」で芸術家と親交を深めた。38年には宏さんの姉千寿さんと結婚。病気療養のため40年に三良坂へ帰郷した。

 戦後を中心に柿手作品約490点を所蔵する同館の元泉園子館長(64)は「アトリエに絵を置いたまま空襲で焼かれたのか、東京時代の作品は数点しかない。戦時中についてもほとんど残っていない」と話す。

 「父から戦争の話はほとんど聞かなかった」と言う築山さんは、日章旗の存在も知らなかった。元泉館長は「貴重な資料。操六さんの名も記されているので、東京で描いて渡したのだろう」と推測する。

 今回の寄託品は築山さんが退職を機に昨年夏、転居し戻った大津市の実家の片付け中に見つけた。その中には、築山さんが妻真理乃(まりえ)さん(65)と結婚した83年に柿手から贈られた油彩画「雪の日のパウロ二世」もあった。額の裏に入っていた手紙には「お二人がいつまでも平和に又すがすがしい日々であるように祈って描きました」などとつづられており、2人で当時を懐かしんだ。

 7月下旬に初めて同館を夫婦で訪れた築山さん。伯父と会ったのは数えるほどしかなく、最後の記憶は中学3年の頃。仕事で米国暮らしが長く、訃報を知ったのも帰国後だった。平和活動や環境保護に力を注いでいたことも後に知った。「周囲を気にしない、おおらかな伯父さん。子どもながらに好きだったな。作品を多くの人に見てほしい」と胸像前で目を細めた。

寄託品の一部 平和展で展示
 6日に三良坂平和美術館で始まる平和展では、寄託品のうち「雪の日のパウロ二世」1点と同館所蔵の柿手作品約40点を展示する。28日まで。一般400円、65歳以上300円、高校生以下無料。月曜休館。同館☎0824(44)3214。

(2022年8月5日朝刊掲載)

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