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原爆症認定基準に2疾患を追加 厚労省分科会 

■記者 岡田浩平

 原爆症認定基準の再緩和を検討していた厚生労働省の被爆者医療分科会(31人)は22日、「積極認定」の対象に、原爆の放射線との関連(放射線起因性)が認められる肝機能障害と甲状腺機能低下症を加えた。原爆症認定集団訴訟での司法判断を重んじた決定。昨年4月に取り入れた基準で積極認定される対象の病気は七つになった。

 厚労省であった分科会では、二つの病気を原爆症と認めた先月28日の東京高裁判決を踏まえ、元裁判官や医師ら委員から「司法判断を重く受けとめるべきだ」などとする意見が相次いだ。反対意見はなかった。

 委員長の谷口英樹・日赤長崎原爆病院第1外科部長は、放射線起因性が完全に否定されない限り原爆症を認めてきた集団訴訟の判決を念頭に、「厳密な科学的知見に合致しなくても司法判断が出た以上、法治国家の一員として尊重すべきだ」と総括した。

 昨年4月以後に一定条件で積極認定しているのは、がん▽白血病▽副甲状腺機能高進症▽放射線起因性の認められる心筋梗塞(こうそく)▽放射線白内障―の五つ。

 二つの病気の追加は、日本被団協など原告側が集団訴訟の一括解決のため国に求めた5項目の一つ。ただ、分科会は、いずれの病気も「放射線起因性が認められること」との姿勢は変えておらず、今後どこまで厳密に審査するかが焦点になる。原告側は「限定的な認定を招くだけだ」と批判している。

 昨年度の認定件数はがんが2335件で最も多い一方、放射線起因性を病名に付した心筋梗塞は27件、白内障も17件だった。原告側は「同じ積極認定でも、放射線起因性を厳密に判断するかどうかを病名によって線引きしている」と批判してきた。

 山本英典全国原告団長(76)は「追加された二つの病気も条件によっては認められない可能性があり、新たな改定運動をやらないといけない。訴訟の全面解決は望めそうもない」と訴えた。

 一方、河村建夫官房長官は基準の再改定を評価したうえで、原爆の日に向けた麻生太郎首相の政治判断による訴訟の解決について「その環境整備の協議が厚労省内で進んでいる」と述べた。

(2009年6月23日朝刊掲載)


集団訴訟原告団は「放射線起因性」を批判

■記者 岡田浩平、東海右佐衛門直柄、水川恭輔

 厚生労働省の被爆者医療分科会が22日、原爆症認定基準の「積極認定」の対象に肝機能障害と甲状腺機能低下症を加えた決定について、集団訴訟の原告団には批判的な受け止めが多かった。「放射線起因性が認められる」との条件がついたためだ。認定には「科学的な根拠がいる」という厚労省側との溝は埋まらなかった。

 原告側は、厚生労働省で分科会を傍聴した後、記者会見。無条件での認定を求めていた日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長(77)は「訴訟の一括解決へ動きだすかと考えたが、大変な課題が残された」と批判した。

 背景には現行基準で放射線起因性の文言を付けた心筋梗塞(こうそく)、白内障の認定が昨年度計44件にとどまった実態がある。全国弁護団の宮原哲朗事務局長は「大幅に認定が進むか疑問だ」と語気を強めた。

 高齢の原告は5月の東京高裁判決を節目に国が訴訟の一括解決を図ると期待してきた。亡くなった姉の訴訟を継いだ田崎アイ子さん(74)は「永遠に裁判を続けないといけないのか」と肩を落とした。

 国は昨年4月、政治主導で原爆症の認定基準を緩和したが、訴訟は続けた。司法判断は科学の限界を踏まえて判断すべきだと指摘するが、厚労省は「被爆から60年以上経過し、放射線起因性の証明が困難だから、否定できない限り認めろという議論は、被爆者援護制度の本質を踏まえていない」と主張する。

 広島では前向きな反応もあった。肝硬変の原爆症認定を求めて広島地裁で勝訴したが、国の控訴で係争中の木村裕彦さん(78)=広島市南区=は「自分もようやく認定されるかもしれない。被爆者には時間がない。一刻も早く認めて」と訴えた。

 ただ、原爆症外来を持つ広島共立病院(安佐南区)の青木克明健診センター長(61)は医療分科会の決定について「当然だ。認定の拡大につながってほしい」と期待する一方、放射線起因性をどう審査するかなど国の姿勢を見たうえで、評価に値するかどうかを判断するとした。

(2009年6月23日朝刊掲載)

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