×

ニュース

李鍾根さん遺志 娘2人 継承決意 韓国人原爆犠牲者慰霊祭に参列 静香さん・千代さん 死没者名簿奉納見守る

 広島市中区の平和記念公園で5日、韓国人原爆犠牲者慰霊祭が営まれ、7月30日に93歳で亡くなった韓国原爆被害者対策特別委員会委員長の李鍾根(イ・ジョングン)さんの娘2人が参列した。被爆や差別を経験し、核兵器のない平和な世界を願った父の遺志を継ぐ決意を新たにした。(川上裕)

 在日本大韓民国民団(民団)県地方本部が、韓国人原爆犠牲者慰霊碑の前で慰霊祭を開催。李さんの長女の森田静香さん(53)=東京=と、次女の李千代さん(52)=安佐南区=が遺影を携えて参加した。この1年間で亡くなった李さんを含む16人の名前を加えた2802人の死没者名簿の奉納を見届け、李さんへの相次ぐ追悼の辞に聞き入った。

 式後、千代さんは「盲腸がんの闘病中も体を鍛え、最後まで慰霊祭の参列を強く希望していた。こんなに早く亡くなるとは思わなかった」と打ち明けた。

 李さんは広島鉄道局に勤めていた16歳の時、爆心地から約2キロの荒神橋近くで被爆。重いやけどを負った。在日韓国人2世で被爆者という事実を隠していたが、2012年に参加した非政府組織(NGO)ピースボートによる航海旅行で被爆体験を語ったのを機に、実名での証言を開始。子どもたちに自身の被爆や差別の経験を語ってきた。

 そんな父から、千代さんは2年ほど前、被爆体験の伝承を頼まれたという。市の被爆体験伝承者として研修を受け、既に講話原稿は完成し、本人による確認も終えていた。「韓国語と英語でも話せるようにして、多くの人に父の遺志を伝えていきたい」。現在は話し方の研修を受けており、23年度にも伝承者として活動を始めるつもりだ。

 静香さんは生前の李さんが、親や兄弟が近くにいなかった多くの同胞について「不安や悲しみを抱えて死んだと思うと胸が張り裂けそう」と心を痛めていた様子を振り返った。

 被爆2世で民団の金基成(キム・ギソン)団長(59)は「被爆体験を伝えるため一生懸命走ってこられた。むごい表現も李さんが明るく話すと子どもの心に届いていた」としのんだ。

(2022年8月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ