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社説・コラム

天風録 『峠三吉の手紙』

 厳しさを増す警備に依然として続くコロナ対策の規制。ことしの8・6式典は会場の対岸にある平和カフェのスクリーンで見た。三々五々集まってきた10人ほどの若い世代も一緒だ。語られる言葉に声一つ出さず聞き入る▲平和宣言や式典あいさつは、どれもウクライナ情勢を踏まえて核の脅威の高まりを口々に唱えた。「核兵器の使用すらも現実の問題」「今そこにある危機」。切迫感は例年の比ではない▲原爆詩人、峠三吉の時代と重ね合わせた。1950年に始まり、広島の式典を中止に追い込んだ朝鮮戦争―。核の使用もささやかれた状況に峠は危機感を強め、病を押して惨禍の記憶を詩に刻み続ける。仲間に送った書簡約50点が広島で見つかった▲「多くの危機をのりこえて私たちは前進するでせう」。開戦の翌年、「原爆詩集」を世に出した直後の手紙に峠は書いた。米占領下の言論統制にあらがいつつ、核の脅威を詩の力で封じ込めようと心に誓ったのだろう▲「いまでもおそくはない/あなたのほんとうの力をふるい起すのはおそくはない」。かの詩集の一節だ。若きも老いも、今だからこそ声を上げたい。持てる力を一つに、核なき世界へ前に進みたい。

(2022年8月7日朝刊掲載)

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