×

ニュース

「核のボタン無用に」 被爆77年 広島平和宣言 侵攻さなか廃絶訴え

 米軍による広島への原爆投下から77年となった6日、広島市は平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。ウクライナに侵攻したロシアが核兵器の使用を示唆する中、松井一実市長は平和宣言で、核抑止力に頼る考えが世界で勢いづいている現状に危機感を表明。「一刻も早く全ての核のボタンを無用のものにしなくてはならない」と核兵器廃絶を訴えた。(和多正憲)

 式典には地元選出の岸田文雄首相が就任後初めて出席。国連トップでは12年ぶりにグテレス事務総長も原爆の日の祈りに加わった。

 松井市長は平和宣言で、核抑止論を「戦争体験から、核兵器のない平和な世界の実現を目指すこととした人類の決意に背く」と指摘。ロシアの文豪トルストイが残したという「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない」との言葉を引いて、「核の脅し」に警鐘を鳴らした。

 核兵器保有国のリーダーには、被爆地で核兵器の惨禍を直視し、核兵器廃絶へ確信を持つよう要望。来年5月に市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)の参加者には強く期待した。日本政府へは、米ニューヨークで開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で保有国と非保有国の橋渡し役を果たした上で、核兵器禁止条約も批准するよう求めた。

 式典は午前8時に始まり、松井市長と遺族代表の2人が、この1年に死亡が確認された広島の被爆者4978人の名前を記した原爆死没者名簿を原爆慰霊碑に奉納。名簿は123冊計33万3907人になった。原爆投下時刻の8時15分に遺族代表の米田慎志さん(45)=西区=と、こども代表の竹屋小6年舛本陽毬(ひまり)さん(12)=中区=が「平和の鐘」を突き、1分間、全員で黙とうした。

 こども代表の幟町小6年バルバラ・アレックスさん(12)=中区=と、中島小6年山崎鈴(りん)さん(11)=中区=は「平和への誓い」で「平和な景色が映し出される未来を創るため、私たちは行動していく」とアピールした。

 市は今回、新型コロナウイルスの感染予防のため大幅に規模を縮小した2020、21年の約4倍となる約3550席を用意したが、感染急拡大などで約700人が欠席。参列者は2854人だった。うち都道府県の遺族代表は27人、海外代表は99カ国と欧州連合(EU)。ウクライナ情勢を背景にロシアとベラルーシの政府代表は招かなかった。

 また、先月8日に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、市や広島県警は式典の警備態勢を強化。参列者の入場時に初めて金属探知機で危険物の持ち込みをチェックした。

平和宣言の骨子

■ロシアのウクライナ侵攻では市民の命や日常を奪っている。世界中で核兵器の抑止力なしに平和は維持できないという考えが勢いを増している。一刻も早く全ての核のボタンを無用のものにしなくてはならない
■他者を威嚇し、自分中心の考えを貫くことが許されてよいのか。ロシアの文豪トルストイが残した「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはならない。他人の幸福の中にこそ、自分の幸福もあるのだ」という言葉をかみしめるべきだ
■核兵器保有国の為政者は被爆地を訪れ、核兵器を使用した際の結末を直視すべきだ。広島市で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席する為政者に強く期待する
■前広島県被団協理事長の坪井直氏の「ネバーギブアップ」の精神を受け継ぎ、核兵器廃絶の実現を目指し続ける
■日本政府には核拡散防止条約(NPT)再検討会議での橋渡し役を果たし、次回の核兵器禁止条約の締約国会議に参加し、一刻も早く締約国となり、核兵器廃絶への動きを後押しすることを強く求める

(2022年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ