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社説・コラム

『書評』 郷土の本 被爆家族を取材 葛藤の日々回想 『ヒロシマ 消えたかぞく』のあしあと

 絵本「ヒロシマ 消えたかぞく」を3年前に出版した児童文学作家の指田和さん(54)=埼玉県=が、創作秘話をまとめた「『ヒロシマ 消えたかぞく』のあしあと」を出版した。被爆地に通った自身の取材を振り返り、作品に込めた思いや葛藤を明かす。

 3年前の絵本は、広島市播磨屋町(現中区本通)で理髪店を営み、原爆で一家6人が全滅した鈴木六郎さん(当時43歳)がのこした家族写真で構成。9歳だった長女公子ちゃんが語りかけるような言葉で、あの日まで確かにあった鈴木家の幸せな日々や、ありふれた日常を写真とともにたどった。

 新著では、指田さんが原爆資料館で鈴木家の写真を初めて目にした時の衝撃や、「この家族に起こったことを、<悲しい>だけですませちゃいけない」と奮い立ち、1500枚もの写真と向き合った日々を赤裸々につづる。

 六郎さんのおいの恒昭さん(90)=広島県府中町=から聞き取った証言を随所に交える。2020年1月末に恒昭さんと国立広島原爆死没者追悼平和祈念館を訪れ、6人の遺影を登録したことにも触れた。

 「原爆が投下されていなければ、六郎さんや公子ちゃんたち一人一人がその後の人生を生きたはず」と指田さん。「この一家に限らず、原爆で亡くなった人々がしっかりと生きていた日々を心に焼き付けてほしい」と力を込める。

 ポプラ社、1760円。(桑島美帆)

(2022年8月7日朝刊掲載)

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