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核なき世界 思い強調 首相、条約には消極的 被爆者 落胆の声も

 被爆地選出の首相として、初めて6日の平和記念式典に臨んだ岸田文雄首相。ライフワークにする「核兵器のない世界」の実現に向け、改めて廃絶へ取り組む決意を示した。被爆者代表との面会では丁寧な対応も見せたが、核兵器禁止条約への参加には消極的な姿勢を終始崩さなかった。(河野揚、明知隼二、山本庸平)

 「77年前のあの日の惨禍を決して繰り返してはならない。被爆地広島出身の総理大臣としての私の誓いだ」。岸田首相の式典あいさつは、重要な部分を読み飛ばした昨年の菅義偉前首相の文面から様変わりし、核廃絶への思いを強く押し出したものになった。

 あいさつでは、自らが決めた来年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)にも言及。この機会も生かし、惨禍を繰り返さないための取り組みを進める意欲を表した。式典後は、国連のグテレス事務総長とともに原爆資料館(中区)を訪れ、折り鶴を共に折る演出も見せた。

 その後、中区のホテルで開かれた市主催の「被爆者代表から要望を聞く会」に出席。被爆者団体の代表6人からは「核兵器禁止条約にオブザーバー参加しなかったことに落胆した」「援護施策のさらなる充実を」など厳しい声も飛んだ。

 岸田首相はじっと耳を傾けながら時折メモを取り、禁止条約については「大変重要な条約だ」と一部同調。ただ、核保有国の姿勢を変えないと核軍縮は難しいとし、まずは「(保有国が加盟する)核拡散防止条約(NPT)の維持強化に大きな意味がある」と答えるにとどまった。

 従来の主張を繰り返す中、踏み込んだ発言もあった。懸案になっている日米両政府が共同運営する放射線影響研究所(南区)の広島大霞キャンパス(同)への早期移転を巡り、「政府として協力する。支援の充実を図る」と明言した。閉会すると、自ら出席者に歩み寄り「ありがとうございました」と名刺を渡した。

 終了後、広島県被団協(佐久間邦彦理事長)の大越和郎事務局長(82)は「禁止条約などの要望はすぐに回答があると思っていないが、被爆者に残された時間は少なく焦燥感がある」と険しい表情を見せた。日本被団協の箕牧(みまき)智之代表委員(80)は、禁止条約に触れなかった式典あいさつを残念がりつつ「安倍(晋三)さんや菅さんとは違い、やはり地元を意識していたと思う。G7サミットなどに期待したい」と振り返った。

(2022年8月7日朝刊掲載)

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