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被爆77年 広島平和宣言【解説】厳しい現実 今こそ行動

 ロシアがウクライナに武力で侵攻し、核兵器の使用をも示唆する中で迎えた被爆77年の「原爆の日」。再び核兵器が使われる懸念が広がる一方、力による侵略がまかり通るかのような情勢に、核抑止の強化を主張する声も勢いを増す。被爆地広島から何を訴え、どう行動すべきなのか。あらためて問われている。

 「厳しい安全保障環境という現実を、核兵器のない世界という理想に結びつける努力を行っていく」。岸田文雄首相は平和記念式典のあいさつで核兵器廃絶への思いを語りつつも、核兵器禁止条約には触れなかった。これまでも何度となく口にしてきた、米国など核保有国を動かす難しさという「厳しい現実」を意識した内容だった。

 事実、日本は米国の「核の傘」の下にいる。ウクライナ侵攻により核大国である米ロの溝はさらに深まり、中国は核戦力の増強を続ける。国内では米国の核兵器を共同運用する「核共有」の議論が起きるなど、核廃絶を巡る情勢は厳しさを増す。

 しかし、被爆地にはまた別の重い「現実」がある。熱線に焼かれた息子に最期に着せたシャツを生涯手元に残した父親。被爆の約2カ月後に現れた放射線の影響で2児を失った夫妻。どちらも肉親の生きた証しを遺族が大切にし、今夏の取材で記者に語ってくれた。核廃絶を求める被爆地の訴えの根底にあるもの。それは原爆が人間にもたらした悲惨、理不尽に奪われた命だ。

 ただ被爆者は高齢化し、直接話を聞く機会は徐々に少なくなっている。廃絶の訴えを継承する若い世代がどうすればこの重みを受け継ぎ、伝えることができるのか。今回の取材では、本人や家族が残した手記が助けになった。

 来年には先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島で開かれる。核保有国を含む大国の首脳が広島に集う、またとない機会になる。国際政治の厳しい現実をも動かす、被爆の現実を突き付ける責務が私たちにはある。残された手記を手に取ってみる。被爆の痕跡を訪れて想像してみる。そんな一つ一つの行動が被爆地の訴えを強くし、犠牲者の思いに応えることにもなるはずだ。(明知隼二)

(2022年8月7日朝刊掲載)

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