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祈る 戦火のない日々を 被爆バイオリン 奏でる願い 重なったウクライナの情景

 原爆投下から77年となった広島原爆の日は、ロシアのウクライナ侵攻が続くさなかに迎えた。広島で暮らすウクライナゆかりの若者たちも6日、核兵器や戦争のない平和な世界の実現を願った。(浜村満大、門戸隆彦)

 原爆ドーム(広島市中区)近くの地下街に、被爆バイオリンの澄んだ音色が響いた。時に力強く、時に繊細に。奏でたのは、実家が南区でウクライナ出身の母を持つ平石英心リチャードさん(15)。平和行事に参加し、マスネの「タイスの瞑想(めいそう)曲」など3曲を披露した。

 バイオリンは、広島女学校(現広島女学院中高)の白系ロシア人の音楽教師が所有していた。現在の東区牛田地区にあった教師の自宅で被爆し、2012年に修復された。「世界に一つしかない楽器を特別な日に広島で弾けるのは光栄」。被爆3世でもある平石さんは静かに受け止めた。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、広島県内各地でチャリティーコンサートも開いてきた。「核兵器の使用は広島と長崎で終わってほしい。ウクライナにも思いが届いてほしい」。そう強く願い、平和の音色を紡ぎ続ける。

 福山市では、3月にウクライナ北西部から逃れてきたアナスタシヤ・クラブチュクさん(14)が、一緒に暮らす姉オレナさん(33)と自宅で平和記念式典のテレビ中継を見守った。

 4月、原爆資料館(中区)を初めて訪れ、核被害の実態に触れたアナスタシヤさん。式典参列者の黙とうに合わせて静かに目を閉じると、廃虚と化した爆心地付近や被爆者のやけどの写真が頭に浮かび、母国の情景と重なったという。「心が痛い。そして怖い」

 母国では親や友人が暮らす。毎日のように空襲のサイレンが鳴りやまず、不安は尽きない。アナスタシヤさんは「ロシアが核兵器を使わないようにと祈り続けている。早く戦争が終わり、核兵器のない世界が訪れてほしい」と願った。

(2022年8月7日朝刊掲載)

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