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社説・コラム

[NPT再検討会議2022] 長崎大・中村桂子准教授に聞く 決裂回避優先の可能性

核戦争への危機感は共有

 米ニューヨークで開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は8日、主要3委員会(核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用)で討議を進める第2週に入った。第1週にあった各国・地域政府代表の一般討論演説を現地で傍聴した長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)に、その評価と今後の見通しを聞いた。(ニューヨーク小林可奈)

  ―一般討論演説の内容をどう評価しましたか。
 想定通りウクライナに侵攻したロシアへの非難が相次いだが、各国は抑制的な姿勢を取っていたように映った。例えば、米ロ英仏中の保有五大国は、1月に発表した「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」という五大国首脳の共同声明をロシアも含めて引用した。

 確かに演説の言葉をうのみにできないし、米英仏とロシア、中国は強い言葉で非難の応酬をしている。一方で、核兵器保有の特権を認めるNPT体制の崩壊は自分たちにとっても利益にならない。決裂を避け、何らかの成果につなげるための最大限の努力がなされるのではないか。

  ―保有国やその同盟国が背を向ける核兵器禁止条約は今後の議論に影響を及ぼしますか。
 一般討論演説では、禁止条約の推進国がNPTと対立しないよう抑制を働かせ、保有国も声高に批判しなかった。ウクライナ情勢がある今、核戦争への危機感は多くの国が共有している。危機的状況の悪化を避けるための力学が作用し、禁止条約は大きな対立をもたらす要因にならないのではないかと思う。

  ―米国の核兵器を同盟国に配備する「核共有」について、中国が「アジア太平洋地域で再現する試みは地域の戦略的安定を損なう。必要であれば厳しい対抗措置も起こりうる」と発言しました。どう受け止めればよいでしょうか。
 「核共有」を求める議論が国内で交わされている日本と韓国を念頭にした発言とみられる。対抗姿勢にはさらなる対抗姿勢をという、際限のない核軍拡の悪循環に陥ることが表れた例だ。日本政府が否定した政策であっても、政治家の発言が他国の反発を呼ぶことも示している。

  ―被爆者が現地入りし、核兵器廃絶を呼びかけました。核兵器のない世界に向けた被爆地の役割は。
 核兵器のない世界を築くためには理論とともに感性が必要だ。感性を育てる上で自らの「1人称」の体験が大きな力を持つ。一般討論演説で、ドイツのベーアボック外相は長崎で被爆証言を聞いた経験を紹介した。政治家や外交官も人間だ。核兵器がもたらす惨状に触れる「1人称」の体験が、その後の行動にもつながる。そうした体験を増やし、広げるために、被爆地に求められる役割は、引き続き大きい。

なかむら・けいこ
 1972年、神奈川県生まれ。米モントレー国際大大学院修了。NPO法人ピースデポ事務局長を経て、2012年から長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)准教授。

(2022年8月9日朝刊掲載)

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