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社説・コラム

[NPT再検討会議2022] 一橋大の秋山信将教授に聞く 根深い対立 合意の道険しい

非人道性発信 日本の役割

 米ニューヨークの国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、岸田文雄首相が目指す最終文書の採択など「具体的な成果」を出すのは可能なのか。現地で議論を注視する一橋大の秋山信将教授(核軍縮・軍備管理)は、核兵器保有五大国間の対立が浮き彫りになるなど「道のりは険しい」と指摘。日本政府には被爆国として核兵器の非人道性を各国に訴え、一致点を探る役割があると説く。(ニューヨーク発 樋口浩二)

  ―ロシアのウクライナ侵攻のさなかで迎えた再検討会議は議論が本格化する第2週を迎えました。ここまでをどう振り返りますか。
 核保有五大国のうち米国、英国、フランスの3カ国と中国、ロシアの2カ国の間の溝が鮮明になったのが特徴だ。核兵器を持たない途上国と保有国との対立も根深く、(交渉が決裂した)2015年の前回会議と比べても合意のハードルは上がっている。全く楽観視できない状況だ。

 中国のスタンスも気がかりだ。米国の核兵器を日本に置いて共同運用する「核共有」を日本政府は退けたのに、あえて名指しで批判するなど西側諸国への攻撃姿勢を強めている。

  ―そうした中で各国による合意は可能でしょうか。
 合意文書の最初のたたき台が示される今週末以降が本番だが、予断を許さない。ただ、今回の会議で合意をみなければNPT体制の信頼は大きく損なわれる。保有国を交えた議論ができるNPT体制は間違いなく核軍縮・不拡散の「礎石」だ。極めて大事な枠組みだけに、何とか合意を目指す必要がある。

  ―そのために日本政府が果たすべき役割は。
 核兵器がひとたび使われればどんな惨状がもたらされるか。広島、長崎の体験からその非人道性を伝えるのは日本の役割だ。決して使ってはならない兵器だと言い続けることが「核兵器の不使用」の原則を再確認することにつながる。

 こうした原則にとどまらず、核兵器の保有情報の透明性向上なども合意できれば望ましい。1995年の会議であった会期途中での決定や決議を含め、あらゆる形で各国の協調を探ってほしい。

あきやま・のぶまさ
 1967年、静岡県生まれ。広島市立大広島平和研究所講師、日本国際問題研究所主任研究員、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て一橋大教授。日本軍縮学会の会長も務めている。

(2022年8月10日朝刊掲載)

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