制度見直し 埋まらぬ溝 原爆症認定議論 最終局面
13年12月2日
検討会 放射線起因性を前提
被団協 被爆距離などが原則
国の原爆症認定制度の在り方に関する検討会の議論が、年末のとりまとめに向け最終局面を迎えている。最大の焦点は、認定範囲に直結する原爆放射線と病気との関連性(放射線起因性)をどこまで厳しく問うかだ。大半の委員が放射線起因性を前提に制度見直しを主張するのに対し、日本被団協の委員が反論。双方の溝は、約3年にわたる議論でも埋まらなかった。最終報告案と、被団協の対案を基に主張の隔たりをみる。(藤村潤平)
現行の認定基準は、爆心地から約3・5キロ以内で被爆▽原爆投下から約100時間以内に約2キロ以内に入市―などの条件を満たせば、がんや白血病など七つの病気を積極認定する。ただし、心筋梗塞や慢性肝炎などがん以外の主な病気は、放射線起因性の有無を専門家たちが審査する。
11月14日の検討会の前回会議。座長の神野直彦東京大名誉教授(財政学)は「長い時間とエネルギーを費やした議論の到達点」と述べ、最終報告案を示した。「放射線起因性を前提として制度の在り方を考えることが適当」と明記された。
ただ、放射線起因性という言葉は「不明確で、分かりづらい」とも指摘。がん以外の主な病気は、病気ごとに新たに条件を設ける。3・5キロより近い被爆距離などの条件が想定され、当てはまれば柔軟に認定する方向だ。
一方、被団協の対案は、被爆距離などの条件を満たせば七つの病気は原則認定する。被爆で浴びた放射線が病気を引き起こす一因として、認定審査の際に起因性を厳しく問う必要はないとの考え方だ。「内部被曝(ひばく)や残留放射線の線量は今となっては分からず、影響も未解明」と主張する。
対案の作成に携わった原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会の宮原哲朗事務局長は「認定審査で放射線起因性について判断すべきではない。認定申請を却下され提訴した訴訟の6、7割はそれで解決する」と分析する。
同連絡会によると、広島、東京など少なくとも5地裁で100人近くの被爆者や遺族が係争中という。
厚生労働省の検討会は、早ければ4日の次回会議で最終報告をまとめる。被団協の対案がどれだけ盛り込まれるかは不透明だ。政府は、報告書の提出を受けて制度見直しの具体的な検討に入る。見直しの議論は政治の舞台に移る。
与党自民党の国会議員でつくる「被爆者救済を進める議員連盟」代表世話人の寺田稔氏(広島5区)は「最終報告案を見る限り、被爆者の救済は不十分。政治の力で進めるしか道は開けない」と受け止める。議連は、議員立法を視野に、被爆者援護法の改正を含む制度の抜本的見直しを模索する。
<原爆症認定制度の在り方に関する検討会の最終報告案と日本被団協の対案の主な違い>
◇論点
①最終報告案
②被団協の対案
◇放射線起因性の扱い
①放射線起因性の範囲についてはさまざまな意見があったが、放射線起因性を前提として、認定の在り方を考えていくことが適当であると考えられる
②放射線起因性の意味内容については意見の一致はないが、放射線の影響を前提として、認定の在り方を考えていくことが適当であると考えられる
◇原爆症認定審査に対する見解
①認定は放射線起因性に関し科学的知見に重きを置いている(中略)との意見がみられた
②認定は厳密な学問的裏付けを求めるあまり過度に厳格な運用となっている(中略)との意見が出された
◇司法判断との隔たりの解消
①現行基準をより明確化するなどの運用改善をすべきだ。こうした取り組みが司法判断と認定の乖離(かいり)を縮める
②現行の審査の方針にある「放射線起因性」という要件自体を削除することが司法判断と認定の乖離を埋めるとする意見もあった
原爆症認定制度
原爆症認定集団訴訟で国が相次ぎ敗訴したのを受け、2008年4月から現行基準に見直された。爆心地から約3・5キロ以内で被爆―などの条件で、がん、白血病、放射線白内障、心筋梗塞、慢性肝炎・肝硬変など七つの病気を積極認定。それ以外は総合判断で認定している。日本被団協は、司法判断と行政認定になお隔たりがあると訴え、厚生労働省は10年12月、有識者による検討会を設置した。
(2013年12月2日朝刊掲載)