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[NPT再検討会議2022] 非保有国を核攻撃しない保障 法的拘束力の有無 焦点

 米ニューヨークの国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第1委員会(核軍縮)で、核兵器保有国が非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障(NSA)」に法的拘束力を持たせるかどうかが焦点の一つになっている。従来ある議論だが、核超大国ロシアによるウクライナ侵攻で関心が集まった形だ。15日に会期後半に入り、合意を巡る各国の交渉が活発化する。(ニューヨーク発 小林可奈)

 「NSAに法的拘束力を持たせることは核兵器廃絶を達成するまでの優先事項だ」。12日の第1委員会で、マレーシアは訴えた。

 スリランカも「軍備管理や核軍縮、核不拡散の目的を達成するための重要なステップとなるだろう」と力説。メキシコは保有国の米国やフランスを名指しし「条件がまだ整っていないとの見解を示した。ならば、その理由を教えてほしい」と問いただした。

 NSAは、NPTが米ロ英仏中の保有五大国のみに核兵器保有の特権を認める「見返り」として、非保有国が求め続けてきた。これまで保有国は一方的にNSAを宣言し、1995年にNPTの無期限延長を決める際にも、NSAの合意が重要な役割を果たした。一方で、条約などで法的に縛られることには消極的な姿勢を取ってきた。

 ロシアが、核兵器の使用を示唆しながらNPT加盟国のウクライナに侵攻する中で開かれている今回の再検討会議。12日付で第1委員会や補助機関がまとめた最終文書の素案には、核兵器の使用や使用するとの威嚇から非保有国の安全を守るため、法的拘束力のあるNSAの交渉を速やかに始めるよう保有国に促す項目がある。

 ただ、フランスは第1委員会で、非保有国の意見に理解を示しながらも「保有国は一枚岩ではない」「法的拘束力は非保有国を新たに保護するものではないだろう」などと言い張った。ウクライナに対して旧ソ連時代の核兵器の放棄と引き換えに安全を約束した94年の「ブダペスト覚書」を巡り、米ロとともに当事国である英国が、安全保障の実効性に懸念を示す場面もあった。

 非保有国の中にもNSAの限界を指摘する意見がある。核兵器を全面的に違法化した核兵器禁止条約を推進するオーストリアは、法的拘束力の重要性を認めつつ「核爆発や戦争は国境を越え、世界中に影響を及ぼす」と指摘。核兵器廃絶に向けた前進を訴えている。

 補助機関の最終文書の素案はほかに、保有国による「先制不使用」宣言や、核兵器の役割を敵の核攻撃阻止や反撃に限る「唯一の目的」政策の採用も掲げる。いずれも核抑止力の低下を嫌う保有国や同盟国が反発してきた方策で、26日の会期末に向け、激しい駆け引きが見込まれる。

<NPT再検討会議後半で見込まれる核軍縮を巡る主な論点>

・核兵器保有国が非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障」(NSA)に法的拘束力を持たせる交渉の早期開始
・保有国による「先制不使用」宣言の採用
・保有国が持つ核兵器の役割を、敵の核攻撃阻止や反撃に限る「唯一の目的」政策の採用
・核兵器禁止条約の意義

(2022年8月16日朝刊掲載)

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