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社説・コラム

天風録 『あの日を刻むマイク』

 日本は勝つといわれ、それをいちずに信じていたのに…。きのう広場面に77年前のきょうを思い出してつづる投稿が載っていた。少女が脱力したのも当然だ。戦争中は偽りの戦況が流され、米英を必ず撃滅できるとされていた▲ラジオも大本営発表を読み上げたり、「一機でも多く特攻機を!」などと呼びかけたり。しかしその女性アナウンサーたちも8月14日、東京の放送会館の一室に集められ、告げられたという。「日本は、負けたよ」と▲その一人で20歳だった武井照子さんが著書「あの日を刻むマイク」に記している。アナウンス室長は翌日に詔勅が下ると言うと続けた。敗戦を認めない反乱軍が来るかもしれないから、「自分の身を守りなさい」。終戦前後の緊迫が伝わってくる▲15日は「心も体も全く空っぽだった」。武井さんも勝つと信じていたのだ。それでも連合国軍総司令部(GHQ)の部局の下、秋から「婦人の時間」アナウンサーに。女性の意識向上のため発信し、子ども番組も作る▲北朝鮮やロシアが今、戦意高揚や華々しい戦果を報じる。その危うさを忘れてはなるまい。きな臭い空気が再び漂わないように、油断せず耳をそばだてておきたい。

(2022年8月15日朝刊掲載)

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