×

社説・コラム

社説 NPT最終文書素案 核保有国に「行動」迫れ

 前回に続き成果を出せずに終わるのか、合意に達することができるのか―。米ニューヨークの国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は折り返し点を過ぎ、議論は大詰めを迎えている。

 実のある最終文書採択へのハードルは高い。核兵器保有国の横暴が目に余り、非保有国との対立が激化しているからだ。例えばロシアは2月、ウクライナに侵攻し、あろうことか核兵器使用までちらつかせている。

 国際情勢が緊迫する中で、核不拡散などテーマ別に三つある委員会の一つで、核軍縮を担当する第1委員会が最終文書の素案をまとめた。「核兵器廃絶が、使用や使用の威嚇に対する唯一の絶対的保障だと再確認する」ことを盛り込んだ。

 これに沿って振る舞うよう米国やロシアなど五つの核兵器保有国に強く求めねばならない。日本政府も、再検討会議を通して力を尽くすべきだ。

 そもそも保有国は、誠実な核軍縮交渉というNPTの義務を果たそうとしていない。近年は「使える核」として小型核兵器の開発にも乗り出している。

 核兵器禁止条約の締約国会議が初めて開かれるなど、「核なき世界」を求める活動は着実に前進している。そうしたうねりは、五つの核保有国も無視できないようだ。今年初め、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」旨の共同声明を出している。

 第1委員会の素案は、それを受けたのだろう。核保有国が非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせることも求めている。当面の措置ではあるが、評価できる。

 消極的安全保障は、使用や使用の威嚇から安全を守るため、非保有国が長年求めてきた。NPTの無期限延長を決定した1995年の再検討会議の直前には、五つの保有国が一方的に宣言した。2000年の再検討会議では、条約化に道を開く「法的拘束力のある消極的安全保障」の重要性を確認していた。

 にもかかわらず、05年、当時のブッシュ米政権は消極的安全保障の国際条約化を拒否する方針を決めた。「ならず者国家」やテロ組織などへの先制核攻撃の選択肢を残すとして、機運の高まりに水を差してしまった。

 その後も動きは進まなかったが、ロシアの暴挙で核使用のリスクが高まっている今こそ、条約化への道を開く必要がある。

 「核の先制不使用」政策も焦点の一つだ。全ての核保有国が採用するようグテレス国連事務総長が提言しており、第1委員会の補助機関がまとめた別の素案には、盛り込まれている。

 ただ、保有国や、その「核の傘」の下にある国々の抵抗が予想され、消極的安全保障よりハードルは高そうだ。実際、オバマ米政権が採用を目指した際、日本政府は反対している。

 中国やロシアの説得も簡単ではないが、核兵器を減らす方向で意見の一致を見いだしたい。

 26日の閉幕まで時間は限られている。岸田文雄首相は、日本の首相として初めて演説し、再検討会議の成功に向けた協力を訴えた。本気なら、腰の重い保有国に直接働きかけるなどで実のある合意を主導すべきだ。それをてこに、全ての保有国に核軍縮への具体的行動を迫る一歩にしなければならない。

(2022年8月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ