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脱北学生 心に刻む「平和」 広島で2回目研修 被爆の実相学ぶ

 北朝鮮を逃れ、韓国で暮らす大学生を対象に、韓国の民間団体が年2回実施している人材育成プログラムの海外研修先に、今年初めて被爆地広島が選ばれた。6月の19人に続き、11月は20人が広島市を訪問。「統一の前提となる平和について学ぶのに、最もふさわしい」。そんな参加者の声が後押ししているという。

 「われわれは統一を願っているが、戦争による統一や、統一後の混乱は決して望んでいない」。脱北学生とともに11月7~9日に広島市を訪れた韓半島未来財団(ソウル)の具天書(ク・チョンソ)理事長(63)は、力を込めた。祖国統一に向けた人材づくりに取り組んでいる。

 一行は、同財団が運営する人材育成プログラムの今年後期の受講生だ。「南北双方を知る北朝鮮出身の若者たちに、統一の懸け橋になってもらおう」と2011年に開設。半年間の課程には海外研修もあり、昨年まではタイ、ベトナム、大阪が訪問地に選ばれていた。

 しかし財団の諮問委員である広島市立大広島平和研究所の金美景(キム・ミギョン)准教授(49)の勧めもあり、今年前期の受講生が初めて広島に。平和記念公園(中区)の見学や金准教授の講義を通して被爆の実相に触れた。

 「後期の研修地を決めるため、過去の研修参加者にアンケートをした。広島がふさわしいとの声が一番多かった」。再訪の理由について、具理事長はそう説明する。「統一を考える際にも無視できないのが北の核問題。学生たちに核兵器の恐ろしさを知ってほしい、とのわれわれの思いとも合致した」

 そこで今回は、平和記念公園の見学とともに、被爆体験を直接聞く時間も取った。09年に脱北したキム・ジアさん(32)=仮名=は「原爆資料館では、ひどく傷ついた人の姿が目に焼き付いたが、そんな人たちが治療も受けられなかった、という話など生々しい証言も心に残った」と語る。「北にいたころは、他国が核を持つのだから自分たちも持つのは当然と思っていた」と振り返りながら、「当時は威嚇のための兵器との認識しかなかった。使われた時のことを考えたことはなかった」と話す。

 同じく09年に脱北したイ・ミソさん(22)=同=は「放射能の影響で亡くなった証言者の友人が『助けて』と必死に懇願していた、との話はとても心に残った」と話し、脱北時の自らの体験を重ねた。

 政治的には決して良好とはいえない現在の日本と韓国。それでも具理事長は言い切る。「これからも学生たちが有益と判断するなら、広島での研修を考えていきたい」(伊東雅之)

(2013年12月2日朝刊掲載)

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