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インスタで広げる返還の輪 徳地・三坂神社 奉納された兵士の写真 防府商工高生 今夏 1枚が遺族へ

 防府商工高(防府市)の生徒が、山口市徳地岸見の三坂神社に奉納された兵士の写真の返還に取り組んでいる。同神社は戦時中、戦地での無事を祈願する「弾よけ神社」として知られ約2万5千枚が奉納された。いまだ約1万4千枚が残る中、生徒は高齢の宮司の思いを引き継ぎ、インスタグラムを使って新たな発信を始めた。この夏、初めて遺族への返還につながった。(山下美波)

 「顔がよく見えるように明るく加工しよう」。7月中旬、同高の一室で3年生5人が、パソコンやスマートフォンを操作し真剣な表情で話し合っていた。画面には軍服に身を包んだりりしい兵士の白黒写真が映る。吉山大喜(ひろき)さん(18)は「一人一人の顔を見ることで、教科書の数字では分からない命の尊さを感じる」とキーボードを打ち鳴らした。

 同高は総合実践の授業の一環で昨年度から返還に取り組んでいる。本年度は同神社の氏子で2017年から返還に携わる石丸祐司さん(80)の「兵士のひ孫世代にも知ってほしい」との思いを聞き、インスタグラムでの発信を提案した。専用のアカウントを設け「#(ハッシュタグ)三坂神社」などと付けて写真を載せている。11日時点で30枚を紹介している。

 三坂神社は日清、日露戦争で祈願した氏子の兵士全員が生還したとされ、日中戦争、太平洋戦争でも全国から写真が届けられた。戦後、佐伯治典宮司(93)や父の故哲三さんが名前や住所を手掛かりに返したが、住所が書かれていなかったり、転居したりしたケースもある。石丸さんも専用のホームページを開き、周知してきた。

 自身も戦争を経験した佐伯宮司は、生徒の活動を歓迎する。16歳の時、海軍兵学校防府分校で終戦を迎え、戦地へ行った仲間もいる。彼らへの思いも返還への原動力となっており「返し終わるまで私の戦後は終わらない」と言い切る。

 8月上旬、生徒の活動が実を結んだ。インスタグラムを通し、1枚の写真が返された。防府市の故中村喜作さんの写真で、神社で受け取ったひ孫の大庭仁美さん(28)=同市=は「私が3歳ごろに亡くなった曽祖父で感慨深い。5歳の娘にも戦争の話を伝えていきたい」。3年小嶋達也さん(18)は「1枚でも返せれば返還の輪が広がると思う。自分自身も戦争について考えるきっかけになった」と話していた。

(2022年8月15日朝刊掲載)

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