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「黒い雨」救済 国の新認定指針 山口の3人に被爆者手帳 県に迅速審査求める声

岩国の八百本さん、昨年11月に申請

 広島原爆の「黒い雨」の被害者救済で、国の新たな被爆者認定指針を受けて今月上旬、山口県内で初めて3人に被爆者健康手帳が交付された。既に計千人以上に交付した広島県と広島市に比べ、対応が遅い。山口県内の対象者からは迅速な審査を求める声が上がる。(山下美波)

 岩国市の八百本規美さん(82)は2日、交付の決定を受けた。申請したのは昨年11月だった。「うれしいが、先が短い中で何カ月も連絡せず待たせるのはひどい」と受け止める。

 5歳の時、疎開先の砂谷村(現広島市佐伯区湯来町)で黒い雨を浴びた。服が真っ黒になったと後に家族から聞いた。50歳ごろから高血圧症に苦しんだ。国が定める従来の援護対象区域(大雨地域)の外だったため手帳は申請しないでいたが、区域外で雨に遭った原告全員を被爆者と認めた昨年7月の広島高裁判決が契機になった。

 原告の親戚に相談し、広島市であった相談会にも参加した。原告弁護団の助言も受け、書類をそろえて山口県に申請した。新指針の運用が始まった今年4月1日以降、同時期に広島県や広島市に申請した知人が続々と手帳を手にする中、八百本さんには何の音沙汰もなく不安が募った。

 6月、山口県から初めて連絡が来て「申請書に不備がある。書き直して」と言われた。申請から半年以上。「なぜ今更。住む場所で対応に差があるのは悔しい」。すぐに書き直し、早期の審査を促した。

 高裁判決が確定後、広島県には8月4日現在で833人の申請があり314人に交付した。広島市は6月末現在で申請2180人、交付731人。山口県は7月末現在で申請20人、うち3人に8月上旬に交付した。山口県医務保険課は「個別の確認作業に時間を要した」と説明する。

 新基準は3月18日に国が通知した。広島県被爆者支援課によると2月、国から各都道府県などに新基準の想定資料が届き、各市町に周知を求めたという。診断書が要る可能性が分かったため、未提出の申請者には連絡した。二井秀樹課長は「一刻も早く渡すため内々で審査を進めた」と話す。新指針の運用が始まった4月1日、22人に発行した。

 山口県内は、人口に占める手帳を持つ被爆者の割合が広島、長崎の両被爆地に次いで高く、区域外で黒い雨に遭った人も相当数いるとみられる。申請者は後期高齢者で、時間は限られている。山口県には迅速な対応と、丁寧な寄り添いが求められる。

黒い雨
 米国が広島に原爆を投下した直後、放射性物質や火災によるすすを含む雨が降った。国は1976年、爆心地から広島市北西部にかけて長さ約19キロ、幅約11キロのエリアを援護対象区域に指定。区域内で雨を浴びた住民に無料で健康診断をし、がんや白内障など11疾病のいずれかを発症した人に被爆者健康手帳を交付し、医療費を原則無料にするなどしてきた。区域外で雨に遭った原告84人全員を被爆者と認めた昨年7月の広島高裁判決を受け、国は新基準を定めた。11疾病にかかっている場合、区域外でも雨を浴びたことが否定できなければ手帳が交付されるようになった。

(2022年8月12日朝刊掲載)

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