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社説・コラム

社説 タリバン復権1年 人権抑圧は放置できぬ

 アフガニスタンから米軍が撤退し、イスラム主義組織タリバンが政権を再び掌握してから1年がたった。

 当時のガニ政権の崩壊に伴って首都を制圧し、多様な民族や勢力が参加する包括的な政治体制の樹立や女性の権利尊重などを約束した。イスラムの教義を極端に厳しく独自解釈する政権運営が反発を招いた過去の失敗を踏まえたとみられる。

 だが約束はまったく果たされていない。暫定政権を認めさせる方便とすれば許しがたい。タリバンをアフガンの正式政府として認める国がひとつも出てこないのもそのためだろう。

 内戦や混乱で疲弊し、復興は道半ばである。国際社会からの承認や支援を求めるのであれば、暫定政権はまず約束を誠実に履行することが欠かせない。

 タリバンは旧ソ連軍撤退後の1990年代に実権を握った。国民の人権、とりわけ女性を軽んじる強権的な政治で批判を浴びた。米中枢同時テロの容疑者をかくまったとして2001年に米軍などの攻撃を受け、政権崩壊した。米軍撤退後の昨夏に復権した際には、こうした過去を踏まえ「20年前と今のわれわれは違う」と強調していた。

 しかし国民の行動を監視し、女性の権利を抑圧する「勧善懲悪省」をすぐさま復活させている。女性は単身での遠出が禁じられ、中学・高校の女子生徒は通学も禁止された。公共の場では目以外を布で覆うように強制されている。女性の就業や教育の機会がまたも奪われてしまったことは批判されて当然だ。

 閣僚はタリバンの母体民族であるパシュトゥン人が占め、女性は皆無である。暫定政権に批判的な記者や活動家の拘束も相次ぎ、ガニ政権の関係者160人は裁判もなしに処刑された。個々の人権が抑圧されている状況には違いない。

 米軍撤退と引き換えにテロ組織との関係断絶を米国と約束しながら、アルカイダ指導者が首都に潜伏していたことも判明した。タリバン側が知らなかったとはとても思えない。

 約束を守らない暫定政権を国際社会が承認できる状況ではない。だが見放したところで事態は好転しないのではないか。

 アフガンは昨年は深刻な干ばつ、ことし6月には東部が大地震に見舞われた。国際救援部隊が入ることもなく、地震翌日に捜索・救援が打ち切られた。世界食糧計画(WFP)は今秋に国民の半数が飢餓にあえぐとして支援を呼びかけている。

 日本は主要支援国として農業インフラや学校、病院整備などに50億ドル以上を拠出してきた。現地で長く活動し、19年に殺害された中村哲医師に代表される民間支援の蓄積もある。

 こうした人道支援に取り組みつつ、タリバンに政権運営の改善を促す働きかけを強めてもらいたい。暫定政権を承認していない今は国際機関を通じた間接的な支援しか手段はないが、支援停止や資産凍結で圧力を強めるだけでは状況は変わらない。

 ロシアのウクライナ侵攻や台湾海峡問題に関心が集まり、アフガンへの注目は薄れがちだ。だが再びテロの温床にしてしまっては元も子もない。アフガンを見捨てればしっぺ返しは世界に及ぶ。国際社会はタリバンに対し、粘り強く対話と説得を重ねていかなくてはならない。

(2022年8月18日朝刊掲載)

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