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海軍を描いた作家 大和ミュージアム企画展 <4> 「陸奥爆沈」の謎に迫る

 吉村昭は、1943年6月に柱島(岩国市)沖で謎の爆発によって沈んだ戦艦陸奥の真相に迫る小説「陸奥爆沈」を描いた。関係者に取材を重ね、資料収集のため呉市立図書館を訪れた経緯も作中に記している。

 陸奥が爆沈した当時の資料は乏しい。事故そのものが軍事機密として口外を許されず、戦後、海軍の資料が散逸したことも一因となった。

 そうした中で吉村が参考にした資料の一つが、現在、大和ミュージアムが所蔵する「戦艦陸奥爆沈事故救難調査記録」である。事故当時に呉海軍工廠(こうしょう)に勤め、救難調査の隊長を命じられた松下喜代作が、第二復員局資料課の職員であった福井静夫の要請を受け、48年にまとめたものだ。

 吉村は、この資料を福井から提供された。作中で「折れ釘(くぎ)のようだ」と表現したのは、資料にある陸奥爆発後の沈座状況推定図を見てのことである。艦体が真っ二つに折れ、艦尾が直角に曲がっているさまから、爆発のすさまじさが推察できる。(大和ミュージアム学芸員 藤坂彰子)

 企画展「海軍を描いた作家 阿川弘之・吉田満・吉村昭」は呉市の大和ミュージアムで開催中。31日まで無休で、以後は火曜休館(祝日の場合は翌日休館、年末年始は開館)。来年3月31日まで。常設展とセットで一般800円など。☎0823(25)3017。

(2022年8月19日朝刊掲載)

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