×

社説・コラム

被爆地広島にできることは 藤原帰一 東京大名誉教授に聞く 原爆被害 継続的訴え重要

 ロシアによるウクライナ侵攻開始から、24日で半年となる。破壊と殺りくは繰り返され、戦争が終わる道筋は今なお見えない。さらに台湾を巡って米国と中国の緊張が高まり、日本でも防衛費増大や核抑止力の強化を求める声が上がる。被爆地・広島は今後、どう訴え、行動すべきか―。東京大の藤原帰一名誉教授(国際政治学)に聞いた。(編集委員・東海右佐衛門直柄)

  ―この戦争は今後どうなるとみていますか。
 ロシアが有利になる可能性はほとんどないだろう。ロシア側の兵器は破壊されいずれ不足する。しかし国内生産の力は衰えており、追加供給が難しくなる。併せて今後、戦争が和平合意により早期に終わることは極めて難しいとみている。

  ―どうしてですか。
 戦争は、この先勝ち目がないと当事者が思った時に終結の条件が生まれる。ロシアにとって今回は「負けるはずのない戦争」。日本がかつて中国を侵略した構図と同じだ。軍事的にも経済的にもロシアが優位で、たとえ一時的に劣勢となっても長期的にウクライナに負けるはずがない、と考えているようだ。今後も残虐な消耗戦が続くだろう。

  ―戦争を終わらせるにはどうすればいいでしょう。
 プーチン政権が倒れない限り、難しい。第1次世界大戦とロシア革命に似ている。第1次大戦でロシア皇帝のニコライ2世は希望的観測で大戦争を進め、国内は大変な混乱に陥った。そして革命で権力は倒された。戦争を終わらせるためには、ロシア国内の反戦意識の盛り上がりに期待するしかない。

  ―ロシアが核兵器を使う可能性はありますか。
 考えたくないが可能性はある。それはロシアが劣勢になり、極限まで追い詰められた時だろう。ウクライナになるべく大きな打撃を与え、戦闘意欲を失わせるため核で都市を攻撃するかもしれない。

  ―この半年の間に台湾を巡って米中の緊張が高まり、日本でも「中国の侵攻に備えて核抑止力を高めるべき」という声が上がっています。どう感じますか。
 現実離れしている。核兵器で脅したら、中国は引っ込むのか。そんなわけはない。日米同盟の下、米国の核の傘という脅しがずっと加えられ、中国はその上で軍事戦略をつくってきた。日本が核兵器の役割を議論することは、中国の核兵器をさらに増強させることになる。

  ―核兵器に頼る安全保障から脱するため、被爆地はどう行動すべきですか。
 核兵器の使用を何としても避けなければ、という訴えを今こそ広げるべきだ。広島・長崎では、原爆による多くの被害の記憶が語り継がれてきた。抑止は破綻し得るし、戦争では人が死ぬ。戦争を考える時、チェスのように相手に対し勝つための戦略を組み立てていてはおしまいだ。被害の現場を見つめ「こんな悲惨なことを起こしてはならない」と訴え続けることが重要なのだ。

ふじわら・きいち
 56年東京都生まれ。東京大卒。同大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。千葉大助教授などを経て、22年3月まで東京大大学院教授。核軍縮などを巡る有識者会議「ひろしまラウンドテーブル」の議長を務める。専門は国際政治。著書に「『正しい戦争』は本当にあるのか」「平和のリアリズム」など。

(2022年8月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ