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社説・コラム

社説 ウクライナ侵攻半年 和平へ世界が結束せよ

 ロシアがウクライナに侵攻してからきょうで半年になる。首都キーウ(キエフ)への侵攻は止まったものの、戦闘は東部だけでなく南部にも拡大。ロシアが2014年に強制編入したクリミア半島にも広がっている。

 ウクライナは最近、戦死者を約9千人と明らかにした。ただそれが全てではないだろう。ロシアと合わせて死者は数万人に上るという報道もある。市民を巻き込み犠牲者が日に日に増える事態は目を覆うばかりだ。

 ウクライナは国土の4分の1を奪われている。解決はロシアの全面撤退以外にはないようにも映る。だがロシアが応じる気配がない以上、段階を追った解決策も選択肢ではないか。まず戦闘を止めることが重要だ。

 両軍が停戦し、その後にロシア軍をウクライナから撤退させる―。そのためには国際社会が一致してロシアに圧力をかけ続け、和平の機会を粘り強く探る結束力が前提になる。

 ウクライナでは病院や学校も攻撃を受け、市民が大量虐殺される危険も高まっている。国連難民高等弁務官事務所は市民の犠牲を5千人以上とするが実際ははるかに多いはずだ。国外に逃れた人は1千万人を超す。破壊された街並みを見ても被害は計り知れない感がある。

 南部のザポロジエ原発周辺での砲撃も深刻だ。原発が戦闘に巻き込まれて被災すれば放射性物質の汚染が広範囲にわたって起きる可能性がある。ロシア、ウクライナ双方が砲撃は相手の仕業と非難するが、どちらであっても原発が世界に被害を及ぼす危険に変わりはない。

 プーチン大統領は核兵器使用をちらつかせてもいる。軍事力で隣国を踏みにじる現状を見れば原発を戦争に利用しないと言ったところで信用はできない。

 ロシアに対する経済制裁は食料、エネルギーの深刻な供給不足も招いた。世界が急激な物価高、食料難に見舞われ、消耗を余儀なくされている。

 欧州では天然ガス価格が昨年同時期の7倍にもなっているという。このままパンや燃料の高騰が続けば、市民が不満を募らせていくのも無理はなかろう。

 フランス総選挙ではウクライナを支援する与党が敗れ、イタリアはドラギ首相が辞任した。ガスや小麦で世界を揺さぶり、科された経済制裁をなし崩しにしたいプーチン氏の思うつぼだろう。影響を最小限に食い止めながらロシアに向き合う道を示し、市民を説得する力量が指導者には問われている。

 制裁に一線を画す中国などに翻意を促す働きかけも欠かせない。各国の足並みが乱れれば侵略行為は既成事実化する。国際社会の秩序が失われてしまうことを忘れてはならない。

 国連はグテレス事務総長がウクライナ入りして穀物輸出再開や原発対策などに取り組んでいる。ロシアの人権理事会資格も停止した。キーウ郊外での市民虐殺などロシアの戦争犯罪が疑われる調査を進めることがさらに圧力になる。あらゆる手を尽くしてもらいたい。

 日本はこの半年、積極的に役割を果たしたのだろうか。逃れてきた避難民を保護し、経済支援をするだけでは物足りない。力で現状を変更しようとする大国の横暴に目をそむけることなく、国際社会を束ねる指導力を発揮することが必要だ。

(2022年8月24日朝刊掲載)

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