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ウクライナ侵攻半年 キーウの教授 母国復興 広島に学ぶ 「戦争の跡残したい」 原爆ドームを見学

 広島、長崎の経験から学びたい―。ロシアがウクライナに侵攻して半年となった24日、ウクライナ・キーウ国立建築建設大教授のガリーナ・シェフツォバさん(49)が広島市中区の平和記念公園を訪れ、原爆ドームを見学した。歴史的建造物の保存を研究しており、戦争被害を伝える被爆地の「負の遺産」も調査。その先には、いまも戦火にさらされる母国の復興を見据える。(明知隼二)

 シェフツォバさんは6月、ウクライナの研究者や学生を受け入れる東京大のプログラムで来日。来年3月まで滞在し研究する。この日は広島の戦後復興に詳しい石丸紀興・元広島大教授の案内で原爆ドームや原爆資料館を見学。焼け焦げた弁当箱などの遺品に「ウクライナの現状が重なり、広島の被害を身近に感じた」と語った。中区での講演では、侵攻による歴史的建造物の被害を報告した。

 ウクライナの木造教会の保存・修復や都市計画が専門。歴史ある街の再開発への関心から、日本での調査滞在は通算で約5年に上る。2018年には尾道市や福山市鞆の浦を訪れた。

 そんな研究者の生活も、半年前の2月24日、ロシアによる侵攻で一変したという。高齢の両親と暮らす首都キーウ(キエフ)の自宅から逃れ、2カ月ほど西部リビウの友人宅に身を寄せた。キーウに戻った後もミサイル攻撃は続き、被害は自宅近くにも及んだ。「安全な場所はなく恐ろしかった」。都市の破壊を目の当たりにして日本の復興への関心を強め、来日を決めた。

 日本滞在中に深めたい研究テーマの一つが、戦争被害を伝える建物の保存だ。広島では当初、原爆ドームを残すかどうか意見が割れたが、1996年には世界遺産になり、原爆被害の発信に大きな役割を担う。

 ウクライナでは住宅復旧などが優先される見通しだが、既にキーウ近郊の破壊された橋の保存が構想されているという。シェフツォバさんは、被爆地の記憶の継承と復興の歩みに祖国を重ねる。「広島と長崎を知り、ウクライナの未来のため、戦争の跡を残すよう考えたい」

(2022年8月25日朝刊掲載)

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