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社説・コラム

天風録 『岸田首相の「ちょい足し」』

 夏バテで箸が進まぬ時には喉ごしのいい、そうめんがうれしい。薬味はネギやミョウガと日替わりで。それでも食べ飽きたなら、麺つゆへの「ちょい足し」を勧めたい▲インターネットで検索すると、いろんなレシピが並んでいる。みそを溶いて輪切り唐辛子を浮かべたり、ごまペーストや焼き肉のたれを混ぜたり。「味変(あじへん)」とも呼ばれる。試行錯誤も一興だが、麺つゆ本来のだし風味はきっちりと利かせておきたい▲すっかり味がぼやけてしまったのは岸田文雄首相が先ごろ、国連本部で行った演説だ。核兵器のない世界に向け「現実的な」歩みを一歩ずつ進めていかなくては―と訴えた▲なぜ、あんな一語をちょい足ししたのか。核保有国を巻き込まねば、何も変わらないと首相はかねて説く。核兵器禁止条約に背を向ける理由にも挙げる。「核の傘」を差しかける米国へのへつらいとも映る。非人道的な核兵器の全面否定こそ、世界の喝采を呼ぶ平和の道だろうに▲核廃絶と核軍縮という言葉は、似て非なるものだ。後者を政府が使うのは、まさか「核兵器の少ない世界」を望んでのことだろうか。被爆地選出の首相だからこそ、本来の持ち味を見失ってほしくない。

(2022年8月26日朝刊掲載)

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