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社説・コラム

社説 原発政策の転換 唐突な表明に疑問募る

 エネルギー政策の転換があまりにも唐突に打ち出されたことに違和感を覚える。岸田文雄首相はおととい、次世代型原発の建設検討をはじめ原発推進の新たな方針を明らかにした。新増設や建て替えは想定しないという従来の姿勢を覆すものだ。

 最長60年と決められている原発を、さらに延命すること。新規制基準でゴーサインが出た7基の再稼働へ国が前面に立つこと―。首相はこれらも含め年末までに具体的な結論を出すよう検討を指示したが、そう簡単に口にできることだろうか。

 2011年の東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえ、歴代政権は「原発回帰」に慎重、または抑制的な姿勢を続けてきた。いま岸田政権がかじを切るとすれば、国民的かつ幅広い議論があってこそだ。

 そう考えると、方針表明の場が脱炭素社会を考える一会議だったのはなぜなのか。しかも新型コロナウイルス感染後の療養中とはいえ首相指示はオンラインだった。本来なら国民向けの記者会見や国会で、正面から説明を尽くすべきではないか。

 岸田政権からすればロシアによるウクライナ侵攻と、脱炭素の国際潮流が政策転換の大義名分なのだろう。確かに原油や天然ガスは高騰し、日本の電力供給が不安視される。火力発電依存も限界がある上に、国際社会から冷ややかな目で見られている。一方で、期待のかかる洋上風力発電など再生可能エネルギーの開発は道半ばである。

 こうした情勢をにらみ、政府・与党はここに至る伏線は張ってきた。6月の骨太方針は原発について「可能な限り依存度を低減」との前年の文言を削り、「最大限の活用」とした。自民党の参院選公約も同様だ。

 ただ国のエネルギー基本計画では岸田政権下の昨年10月の見直しでも電源構成の原発比率を30年に20~22%とするなど、従来の方針を維持した。その点との整合性はどう考えるのか。生煮えの政治判断で前のめりになるとすれば問題である。

 そもそもエネルギー政策は中長期的な戦略であり、何をするにも時間がかかる。新たな方針が目の前の電力不足を直ちに解消するわけではないことも、冷静に考えておきたい。

 象徴的なのが次世代型原発だろう。経済産業省は一足早く議論を始めている。現行の原子炉をベースに安全性を高める「革新軽水炉」が有力というが、出力が小さく工期が短い「小型モジュール炉」などを推す声もある。ただ実際の稼働となると相当先であり、建設には膨大な投資が要る。電気料金で採算が取れるのか。政府が資金を出して原発建設を主導するのか。どう考えても課題は山積する。

 もし原発への回帰を議論するとすれば、本質的な問題点に正面から向き合うべきだ。どんなに技術が進んでも原子炉自体のリスクは残る。備えるのは災害だけではない。ウクライナ情勢を持ち出すのなら、ザポロジエ原発が現に戦闘に巻き込まれ、国際社会を不安に陥れていることも忘れてはならない。

 原発の廃炉をどう進めるか。稼働で生じる「核のごみ」の行方は。原発に替わりうる再生エネルギー拡大への努力は、どこまで尽くしているか。新たな局面を迎え、首相の見解を聞きたいことが限りなく浮かぶ。

(2022年8月26日朝刊掲載)

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