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原爆症検討会 最終報告 「切り捨て」「政治の力を」 被爆者ら落胆・期待交錯

 厚生労働省の有識者検討会が4日にまとめた原爆症認定制度の在り方をめぐる最終報告。3年にわたる議論の末、現行以上に認定範囲を広げることに慎重な姿勢を打ち出した。広島の被爆者には落胆と、制度見直しに向けた政治判断に期待する声が交錯した。

 「最終報告は欠陥だらけ」。検討会終了後、厚労省で記者会見した検討会委員の一人、広島県被団協の坪井直理事長(88)は語気を強めた。「待ちわびている被爆者に申し訳ない」

 もう一つの県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長(73)も「司法と行政の隔たりを埋める目的で始まったのに、残留放射線や内部被曝(ひばく)の影響は科学的知見に耐えられないと切り捨てた」と憤った。

 原爆症の認定基準が2008年に緩和された後も、認定申請の却下は相次ぐ。爆心地から2・4キロで被爆した内藤淑子さん(69)=広島市安佐南区=も白内障を患って申請したが却下され、広島地裁に提訴した。「最終報告の方向では、被爆者の救済が前進すると思えない。政治の力で基準を抜本的に変えてほしい」と訴えた。

 広島市の松井一実市長も記者会見し、「行政と司法の隔たりが十分埋まらない内容となり、大変残念だ。高齢化した被爆者に寄り添ったより良い制度になるよう政治判断を」と求めた。

 08年の認定基準の緩和は、第1次安倍政権がその道筋をつくった。日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長(81)は「当時と今とでは安倍政権を取り巻く政治的な状況が違う。熱意にも格差がある」と分析。政党への働き掛けを強める考えを示した。(城戸収、岡田浩平)

【解説】議論3年 解決策見えず

 厚生労働省の原爆症認定制度の在り方に関する検討会が丸3年に及ぶ議論を終えた。病気が原爆放射線によって引き起こされたかどうかを主な判断材料にする今の認定制度の是非をめぐり、日本被団協の委員と他の委員とが最後まで対立。抜本的な解決策は見えないまま、制度見直しの議論は政治の場に舞台を移す。

 検討会は当初、菅直人首相(当時)の意向を受け、被爆者援護法改正による制度見直しも視野に入れていた。しかし、最終報告で具体的に示されたのは、病気ごとに積極認定する被爆条件を細かく設定する「基準の明確化」だけだ。抜本改正に望みを託し、議論を見守り続けた被爆者の憤りは当然だ。

 対立が深まった背景には、福島第1原発事故の影響もある。被団協の委員は、原爆による内部被曝や残留放射線の影響など未解明な部分にも焦点を当てようとした。一方、他の委員は「福島の問題を含むことになり、影響が大きい」と、現在の科学的な知見に基づく厳格な制度の運用を求めた。

 自民党の議員連盟は、議員立法を視野に法改正を含む制度の抜本見直しを模索する。ただ、与党内に制度見直しに向けた関心が高まっているとは言い難い。高齢化する被爆者に寄り添う視点で見直されるには、世論の後押しが不可欠だ。(藤村潤平)

(2013年12月5日朝刊掲載)

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