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社説・コラム

天風録 『〈決めざる〉を決め込んだNPT』

 えり抜きのデザイナーが毎年1人、ポスターでヒロシマの心を訴える。ご存じ「ヒロシマ・アピールズ」に一度、米国のウォルト・ディズニー本社から待ったがかかったことがある▲両手で目を隠し、固く口をつぐむ「世界で最も有名なネズミ」らしき姿が描かれたからだ。亡き石岡瑛子(えいこ)さんの手になる、1990年の作品。「被爆の悲劇を二度と見たくない」。そう願いつつ、くすぶる核戦争の危機に〈見ざる、言わざる〉を決め込む世界への警告でもあった▲あの警告から30年以上もの歳月を経た今、今度は〈決めざる〉を目の前にしている。NPT再検討会議が合意点を見いだせぬまま、幕を下ろしてしまった▲げんなりして、わが仕事場を見回すと「アピールズ」の最新作が目に付く。壁や柱に、ざっと10枚以上。白地に黒々とした文字で〈NO NUKES NO WAR〉。Oの文字だけ黄色いのは、起用されたデザイナー佐藤可士和(かしわ)さんが、核兵器も戦争も要らない―との声に希望の光を託してのことだと聞いた▲今思えば、黄信号だったのかもしれない。諦めは禁物だが、まだ巻き癖の消えないポスターが不平でも言いたげに、壁で少し反り返っている。

(2022年8月28日朝刊掲載)

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