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社説・コラム

広島市立大広島平和研究所 大芝亮所長に聞く 核軍縮へ 日本が行動を

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂に終わった背景や今後の核軍縮の見通し、来年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)の役割について、広島市立大広島平和研究所の大芝亮所長(68)=国際関係論=に聞いた。(明知隼二)

  ―結果をどうみますか。
 昨年1月に核兵器禁止条約が発効し、核軍縮に向けた圧は高まると期待されていた。しかし今年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、世論や各国の政策で核抑止の考えが強くなり、核軍縮へと向かう力がそがれてしまった。決裂は残念だが、議論の過程では良い点もあったと思う。

  ―具体的には。
 ウクライナ侵攻で、核兵器保有国が非保有国を核で脅す行為を深刻に捉える見方が広がった。非保有国を核攻撃しない「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせる議論が深まったのは次につながる。

  ―2回連続の決裂で、NPT体制が揺らぎかねない状況です。
 NPTは5カ国にだけ核兵器保有を認める不平等な面もあるが「ましな選択」だ。核拡散を防ぎ、ロシアとの対話のチャンネルを残すためにも、各国が協力して維持すべきだ。ただNPT維持や核不拡散を重視するあまり、核軍縮を後回しにしてはいけない。NPTの下で核軍縮が進まない不満から禁止条約が生まれたのを忘れるべきではない。

  ―日本はどのような役割を果たせますか。
 政府が繰り返し表明してきた「橋渡し」は重要な役割だ。保有国と非保有国の間はもちろん、非保有国の中にも、禁止条約を推進する国と核抑止に頼る国がある。日本は仲立ちをできると思うが、NPTでは具体的な行動が見えず残念だった。広島サミットを、日本外交の巻き返しの機会にしてほしい。

  ―広島サミットに何を期待しますか。
 日本政府の訴える軍縮・不拡散教育は国際的に評価されている。近年のサミットでは、非政府組織(NGO)の会合も併せて開かれるのが通例だ。軍縮教育で地元自治体や市民、国内外のNGOが連携できれば、広島らしい取り組みを打ち出せるのではないか。NPTの失敗を「残念」で終わらせず、私たち自身の次の行動を考えたい。

(2022年8月28日朝刊掲載)

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