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社説・コラム

社説 NPT再検討会議の決裂 核廃絶の道筋 立て直せ

 この4週間の議論は何だったのだろう。米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終文書に合意できないまま閉幕した。7年前の前回会議に続く決裂に、強く失望する。

 半世紀以上にわたり、曲がりなりにも歯止めとして存在してきたNPT体制の限界がさらに露呈し、信頼を失墜させる事態にほかならない。核兵器廃絶への道筋が見えるどころか、目の前の核軍縮への機運すら退潮していくのは絶対に許されない。

 むろん決裂の責めはロシアが負う。ぎりぎりまで調整された最終文書案に土壇場で反対を表明した。ウクライナ侵攻でロシアが占拠したザポロジエ原発を巡って自国を名指しする非難はなかったものの、ウクライナによる管理の重要性に言及したことなどに反発したからだ。自分たちの暴挙を棚に上げた厚顔無恥の姿勢に憤りを覚える。

 ロシアによる核兵器使用の威嚇と、原発を戦闘に巻き込んだことで生じた未曽有の危機―。ウクライナで噴出した核を巡る情勢の悪化が、前向きな議論を妨げたのは疑いない。欧米や日本などが閉幕に当たり、「ロシアは核不拡散体制とNPTの存在意義を揺るがしている」と共同声明を出したのも当然だ。

 ただ一つ考えるべきは、仮に最終文書案のまま合意されたとしても「ないよりまし」にとどまり、会議が成功したと言い切れる中身ではなかったことだ。途中で浮上したさまざまな論点が、全ての国の同意を得る駆け引きの中で次々と骨抜きになるさまが日々、伝えられた。

 透けて見えたのが、やはり核保有国への過剰な配慮である。保有国に「核先制不使用」を促す文言はあっさり削除された。米国や英国、フランスなどが異を唱えたからだ。兵器用核分裂性物質生産の一時停止要求についても、核戦力の増強を進めたい中国の反対で姿を消した。6月に第1回締約国会議が開かれた核兵器禁止条約の意義を含む文言も落とされた。

 一方、非保有国が求めた核軍縮の数値目標や期限設定は見送られた。最終文書案には米ロに新戦略兵器削減条約(新START)の後継条約への合意を求める中身などが残っていたが、それも幻に終わる。

 これではNPTが義務付ける核軍縮の努力どころか後退させた会議と言われても仕方ない。ロシアだけを悪者にして、他の核保有国が自らの後ろ向きな姿勢を恥じないようでは困る。

 被爆国の役割も問い直されよう。期間中、核保有国と非保有国の橋渡しをするはずの日本政府の存在感は希薄だった。

 日本の首相として初めて会議に出席し、演説した岸田文雄首相はきのう、ロシアを批判しつつも最終文書案に他の国々が反対しなかったことは評価した。NPTを維持・強化する重要性を口にしたが、NPT体制そのものが機能不全に陥りつつある現実を、どこまで深刻に受け止めているだろう。

 次回の再検討会議は2026年に開かれる。NPTの議論任せにして手をこまねくことがあってはならない。核危機への処方箋はやはり核兵器廃絶しかない。核の非人道性を強く胸に刻み、国際社会も日本も禁止条約を軸に、核兵器のない世界への道筋を立て直す必要がある。

(2022年8月28日朝刊掲載)

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