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社説・コラム

『潮流』 ハノーバーの灯籠流し

■論説委員 高橋清子

 ドイツ・ハノーバー市で8月6日夜、ヒロシマの灯籠流しがあった。古城を思わせる市庁舎前の池に、折り鶴を描いた88個がほのかに浮かぶ風景は、不思議に調和が取れていた。撮った写真を、広島市立大芸術学部講師の藤江竜太郎さんに見せてもらった。

 原爆犠牲者を悼み、平和記念公園に寄せられた折り鶴の再生紙を使った。世界中から集まる平和への祈りを発信し返したい―。そう思いを込めたという。学生が制作した分を持ち込み、現地のワークショップでも家族連れが絵筆を執った。

 ハノーバー在住で茶道上田宗箇流の中本洋世(ひろよ)さんは参加者に、抹茶を振る舞った。折り鶴の焼き印をした和菓子を添えて。「どうして折り鶴?」との問いを受け、被爆や平和の話が深まっていく。広島には茶道のように被爆で途切れさせなかった文化もある。「折り鶴を未来への希望の象徴にもしたい」と中本さん。多くのメッセージを伝える場になったようだ。

 ともに悲惨な戦禍に遭った広島とハノーバー両市は姉妹都市提携を結ぶ。市立大は現地の大学と学術交流を始め、上田宗箇流はハノーバーに稽古場を開いて茶道文化を広めてきた。来年の姉妹都市40周年を前に企画された灯籠流しは、地道に積み重ねた交流の厚みがあって実現したと感じる。

 世界から見てヒロシマは平和と復興のシンボルである。藤江さんは「それぞれのネットワークを少し整えるだけで、広島の送るメッセージはもっと強くなる」と連携した意義を語る。

 広島の8・6の「とうろう流し」は3年ぶりに市民のメッセージを受け付けた。ロシアのウクライナ侵攻で平和が揺らぐ危機感を書き込む姿があった。

 来年5月には先進7カ国首脳会議(G7サミット)を迎える。市民から世界へ、どれほど強いメッセージを届けられるだろうか。

(2022年8月27日朝刊掲載)

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