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「原爆・平和」 関連書籍 この1年 戦争と核兵器 非人道性まざまざ

 ロシアによるウクライナ侵攻が続き、核兵器使用の脅威が現実味を帯びた中で迎えた被爆77年。この1年間に出版された「原爆・平和」関連の書籍は、さまざまな角度から戦争と核兵器の非人道性を浮き彫りにした作品が目立つ。=敬称略(桑島美帆)

継承

情景描写や表現 試行錯誤

 広島市立中央図書館によると、昨年8月から今年7月まで刊行された「原爆・平和」関連は約100点に及ぶ。あの惨禍を二度と繰り返さないよう、史実や体験を次世代へ継承するための試行錯誤が続く。

 被爆2世の児童文学作家朽木祥は、小説「パンに書かれた言葉」(小学館)を出版。被爆直後の広島の光景や、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を、史実に裏付けされた情景描写で浮かび上がらせた。

 芥川賞作家の池澤夏樹とイラストレーター黒田征太郎が手がけた「旅のネコと神社のクスノキ」(スイッチ・パブリッシング)は、猫とクスノキの対話から旧陸軍被服支廠(しょう)の被爆前後の姿を描いた。中澤晶子「ひろしまの満月」(小峰書店)は、子どもたちが「自分ごと」としてあの日と向き合うきっかけになり得る物語だ。

 指田和は「『ヒロシマ 消えたかぞく』のあしあと」(ポプラ社)で、3年前に出した絵本の創作過程を振り返り、全滅した家族がのこした膨大な写真と向き合った苦悩や葛藤を明かす。浅井春夫たちが編集した「事典 太平洋戦争と子どもたち」(吉川弘文館)は、戦争が生みだした孤児や貧困、軍国教育などの問題を質問に答える形式で解説する。

被爆者の足跡

体験 丹念にたどる

 自ら惨劇に遭いながら平和活動に生涯をささげた被爆者の足跡をたどる著書も相次いだ。広島在住の漫画家さすらいのカナブンの新作「あの日、ヒロシマで」(みらいパブリッシング)は、2017年に100歳で他界した医師肥田舜太郎と、戦中戦後に路面電車に乗務した増野幸子の体験を漫画にした。

 元朝日新聞記者の宮崎園子は「『個』のひろしま」を出版。昨春、84歳で急逝した岡田恵美子の遺品や音声記録を基に、どの被爆者団体にも属さずに「具体的な行動を」と、証言活動や反核運動に突き進んだ女性被爆者の生涯を追った。毎日新聞記者の小山美砂は、「黒い雨」を浴びながら被爆者として認められてこなかった人々を取材。新書「『黒い雨』訴訟」(集英社)に記録した。

史実を掘り起こす

今なお続く実態解明

 各分野の研究者が未公開文書などを基に、史実の掘り起こしや警鐘に挑んでいる。古川修文・元法政大教授の「原爆ドーム 再生の奇跡」(南々社)は、建築家の故佐藤重夫の遺品から見つかった記録や写真から、原爆ドームの保存工事などを振り返る。広島大大学院の川口隆行教授は「広島(ヒロシマ) 抗(あらが)いの詩学」(琥珀書房)で、1950年代の原爆文学と戦後文化運動を分析した論考をまとめた。

 科学史家の常石敬一は、40年以上研究を続けてきた集大成「731部隊全史」(高文研)を発刊。膨大な資料から、人体実験を繰り返した旧日本軍の軍事研究の実態を暴く。広島大名誉教授の利島保は、原爆傷害調査委員会(ABCC、現放射線影響研究所)にいた遺伝学者、故ウィリアム・シャルの回想録を翻訳し「廃墟からの歌声」(新曜社)を出した。

核軍縮

見つめ直す 核禁条約の重要性

 核兵器禁止条約が発効して約1年半を迎えた今年6月、ウィーンで第1回締約国会議が開かれた。日本政府が依然として条約に背を向ける中、川崎哲(あきら)監修・解説「核兵器をなくすと世界が決めた日」(大月書店)や、早稲田大学出版部編「『平和宣言』全文を読む」の「ヒロシマの祈り」と「ナガサキの願い」など、条約の重要性を見つめ直し、核兵器廃絶を求める書籍も目を引く。

(2022年8月27日朝刊掲載)

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