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[ひろフェス 2022] かけがえない命 アニメで発信 ウクライナの作家 ファリレイエバさん 「平和守る心」 広島訪問で実感

 広島市を主会場として開催中の「ひろしま国際平和文化祭」に、ロシアの侵攻を受けるウクライナから作品を出品したアニメ作家がいる。首都キーウ(キエフ)を制作拠点とするアナスタシア・ファリレイエバさん(22)。初めて訪れた広島で「互いを心配し思いやる人々に感銘を受けた」と語り、今後自身の作品を通じ「命のかけがえなさを世界中に伝えていく」と誓った。(木原由維)

 幼少期に見た「美少女戦士セーラームーン」をきっかけに日本のアニメや文化が大好きになったというファリレイエバさん。大学で映画やテレビの制作を学び、2020年に卒業後、アニメの創作を続けてきた。

 今回、同文化祭のアニメコンペティションに「ぶらぶらタイガー」(21年)を出品し、入選した。日本を舞台に描いたのは、傷ついて自殺を図った少女が周りの支えを受け生きる希望をもつ再生の物語だ。念願の広島訪問で得たものは大きかったという。「平和を守ってきた優しさや強さが美しい街並みから伝わってきた。復興の空気を吸収し、ウクライナに持ち帰りたい」

 今年2月の侵攻から間もなく、当時の制作拠点だったキーウ近郊のイルピンにロシア軍が侵入。避難を余儀なくされ、実家のあるウクライナ中部のクレメンチュクを目指した。生まれ育ったその町では6月、ショッピングセンターにミサイルが撃ち込まれ、多くの住民が亡くなった。恋人の家は火災に遭い、友人や親戚は今も現地にいる。「戦禍の悲しさを言葉で説明することはまだできない。だからこそアニメで発信したい」と目を潤ませた。

 現在はキーウを拠点に制作を再開。最新作の短編集は心理学者らと協力し、戦争で負ったさまざまな心の苦しみをほぐそうとする人々を描いた。「誰もひとりぼっちではない。鑑賞した一人でも多くが、そう気付いてくれたらいい」とほほ笑んだ。

(2022年8月27日朝刊掲載)

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