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連載・特集

NPT再検討会議2022 決裂再び <1> ロシアの侵攻

 米ニューヨークの国連本部で1~26日に7年ぶりに開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、核軍縮や核不拡散の方策を示す最終文書を採択できず、2回連続で決裂した。ロシアのウクライナ侵攻で核兵器の使用リスクが高まる中、その侵攻が合意を阻んだ形だが、核軍縮を巡る核兵器保有国と非保有国の対立も繰り返された。国際社会は被爆地が望む「核兵器のない世界」へ前進できるのか。4週間の交渉を振り返り、今後を展望する。

保有国の分断 浮き彫り

最終案骨抜き 軍縮停滞

 「ロシアが今なお続けるウクライナへの侵略戦争は、NPT加盟国にとって重大な懸念事項だ」。ロシアが反対し、最終文書案の採択が見送られた26日の全体会合。ロシアによる侵攻や核の脅威を糾弾する米英、日本など50カ国超の共同声明をフランスが発表し始めると、抗議の意を示すようにロシア代表団が続々と議場から退出した。核兵器保有五大国の分断を最終日に際立たせた。

米露の対話なく

 ロシアによるウクライナ侵攻はのっけから会議を直撃した。第1週の一般討論演説で、米英仏をはじめ各国が、核で威嚇し、ウクライナ南部ザポロジエ原発を占拠しているロシアの一連の行動を非難。委員会討議も同様で、ロシアは反論を続けた。

 会議は従来、核兵器保有国に対し、核軍縮の停滞に不満を持つ非保有国が相対する構図が軸だった。五大国は一定に協調してきたが、今回は「米国とロシアの対話がなかった」と外交筋。別の外交筋は「これまで討議されてこなかった新たな議題が生じ、各国の立場も分かれている」と合意形成の難しさを吐露した。

 国際情勢そのままに先鋭化する米英仏とロシアの対立とは距離を置き、中国も自国の立場を強硬に主張。オーストラリアへの原子力潜水艦の導入など米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を「NPTの目的に反している」と訴え、最終文書案にはAUKUSを念頭に海軍の原子力推進を「加盟国の関心事」と入れ込んだ。一方で核兵器の増強に支障となる兵器用核分裂性物質生産の一時停止は文案からの削除に成功した。

 保有国による「先制不使用」宣言の削除、核軍縮の数値目標や期限設定の見送り…。最終文書案の内容の薄さが示す核軍縮の停滞について、核兵器禁止条約を推進する国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のフィン事務局長は「ウクライナ侵攻が言い訳として使われている」と断じた。

悔しさと疲労感

 結局、ロシアが26日昼ごろにスラウビネン議長(アルゼンチン)側へ最終文書案の変更を迫り、5項目で応じられなかったとして合意しなかった。複数の外交筋によると、ザポロジエ原発などウクライナの核施設のほか、ウクライナの核兵器放棄と引き換えに米英ロが安全を保障した1994年の「ブダペスト覚書」に関する項目とみられる。

 妥協を重ねながらスラウビネン議長や加盟各国が合意を目指したのは核軍縮・不拡散の「礎石」であるNPT体制の維持へ、2回連続の決裂を避けたいという共通認識があったからだ。26日午前の時点では、合意に向けた機運が出ていた。

 「4週間映画を撮り、最後に記念撮影をしなかったからといって、映画がなくなるわけではない」。26日深夜に記者会見したスラウビネン議長の声には、悔しさと疲労感がにじんでいた。(小林可奈)

(2022年8月30日朝刊掲載)

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