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社説・コラム

社説 アフリカと日本 支援の「質」 中身問われる

 チュニジアでの第8回アフリカ開発会議(TICAD)はおととい、討議成果の「チュニス宣言」を採択して閉幕した。日本がアフリカ協力で重視するとした「成長の質」とは、いったいどういう意味だろう。

 岸田文雄首相は初日のオンライン演説で、官民合わせて総額300億ドル(約4兆1千億円)規模の資金投入を表明し、保健や農業分野での「人への投資」を軸に据えた。大規模投資の路線を踏襲したものの、苦し紛れのアピールに聞こえる。

 アフリカは人口増や鉱物資源の恵みを背景に巨大市場への成長を期待され、世界で「最後のフロンティア」といわれる。中国や米国、歴史的につながる欧州各国による投資競争は激しさを増し、日本も安倍政権以降、流れに乗ろうと目指してきた。しかし、投資額は民間企業の進出の難しさもあってむしろ減りつつあり、とても「量」では対抗できない情勢にある。

 今回のTICADは首脳級の参加が半減し、規模の縮小が目立った。岸田首相が新型コロナウイルスの感染で渡航をとりやめた影響を除いたとしても、期待感が薄れた表れだと専門家は指摘した。アフリカとの関わり方は分岐点を迎えていよう。

 具体策で最も重点を置いた人材育成は、農業や保健分野などで3年間に30万人を目指すとした。質の高い教育の提供も打ち出した。ただこれまでも技術者の育成は掲げてきた。成果はどの程度あったのか。54カ国のうち誰を対象とし、現地のニーズに合っているのか。数値だけでは掛け声倒れに終わる。

 TICADは1993年に始まった。当時は日本が世界最大のアフリカ援助国であり、インフラ整備をはじめ政府開発援助(ODA)が議論の中心だった。2013年の第5回会議から民間投資の重視へと軸足を移した経緯がある。

 だが、直接投資額も企業の拠点数も米英や中国に1桁及ばない。公的資金が限られ、企業へのサポート体制は十分とはいえない。政情不安のリスクがあるとはいえ、中途半端にかじをきった結果ではないだろうか。

 折しも前回会議からの3年で、アフリカを取り巻く情勢は激変した。新型コロナウイルス禍は経済成長に水を差し、ロシアのウクライナ侵攻で食料危機はより深刻になった。貧困層が依然として厚く、国際情勢の変化によって命や暮らしがすぐに脅かされるアフリカの課題が、改めて露呈した形である。

 日本には、そこに焦点を当てた、地道で信頼される援助が求められている。今回も食料や感染症対策の支援を掲げたが、実態の見えにくい投資に比べて少な過ぎるくらいだ。

 アフリカを巡っては欧米も中ロも、それぞれの経済構想や安全保障戦略を念頭に関与を強めている。とりわけ中国は投資額で圧倒し、多額の借り入れを盾にインフラの使用権を得る「債務のわな」との批判を受ける。ロシアは一部の国に武器を輸出。ウクライナ侵攻でアフリカ諸国が欧米の制裁にくみしない背景となった。注視は必要だ。

 日本は自国の利益にだけ目を向けた競争に加わってはなるまい。医療・保健分野の支援を中心に実績と強みがある。アフリカの持続的な発展を支える原点に立ち返り、存在感を高めたい。

(2022年8月30朝刊掲載)

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