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連載・特集

緑地帯 池田正彦 「原爆詩集」70年⑥

 昨年秋、広島市は中央図書館を含む3施設をエールエールA館に移転する案を提示した。この商業ビルを管理する第三セクターの苦境を救済するための「移転」とも指摘された。その後、ほかの案と比較検討する方針を示したが、図書館の所蔵する鈴木三重吉をはじめとする文学資料についての処遇などには詳しく触れていない。資料の多くは遺族や関係者から寄贈されたものだ。「保管・管理は本当に大丈夫だろうか」という不安と不満が消えない。

 1987年、峠三吉のおい・三戸頼雄氏宅の調査で大量の草稿類が見つかり、「『ちちをかえせ』の原形発見」と中国新聞で報じられた。私が整理を担当したその資料は90年に中央図書館へ寄贈され、「資料目録」を作成することになった。当時の中央図書館館長だった西川公彬氏は目録序文で、「日記・草稿・メモ等峠三吉の原資料、『われらの詩の会』関係資料や地方同人誌等に関する資料も含まれており、峠三吉のみならず、広島の戦後史を知るうえでも大変貴重なものである」と記している。

 目録に記録されている資料は次の通りである。①「原爆詩集」に関わる直筆原稿類。それにかかわるメモ・日記など②「われらの詩」関連資料③「原子雲の下より」未収録原稿類④評論、短歌、俳句類⑤遺品(デスマスク、ネクタイ、表札、印刷凸版など)―などの計3339点(90年時点)。問題は、これらの重要な所蔵資料がしかるべく管理・保管されるか、である。 (広島文学資料保全の会事務局長=広島市)

(2022年8月30日朝刊掲載)

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