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連載・特集

NPT再検討会議2022 決裂再び <2> 被爆国政府

「橋渡し」の行動見えず

被爆者「核禁条約を」

 米ニューヨークの国連本部で核拡散防止条約(NPT)再検討会議が合意をみず、閉幕した2時間半後。新型コロナウイルス感染の療養で公邸にいた岸田文雄首相は27日、モニター越しの報道陣に「NPT体制を維持強化することこそ核軍縮に向けた唯一の現実的な取り組みだ」と語った。2015年に次ぐ2度連続の決裂にも、「核兵器のない世界」へなお重視する枠組みとの考えを繰り返した。

 7年ぶりの再検討会議に日本の首相として初めて出席。広島、長崎への原爆投下以来続く「核兵器不使用」の継続や核戦力の透明性向上など5項目の行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を初日の演説で打ち出した。

 とんぼ返りで帰国。その後本格化した4週間の交渉では、被爆国が果たした役割に厳しい目が向けられた。とりわけ外相時代から自負する核兵器保有国と非保有国との「橋渡し」については、具体的な行動をいぶかる声が上がる。

平和外交の限界

 「橋渡しの姿勢は非常に弱かった」。核兵器廃絶日本NGO連絡会(東京)メンバーで会議を傍聴した米ミドルベリー国際大院生の浅野英男さん(25)は29日、オンライン会見で指摘した。保有国との水面下での折衝に尽くしたのは日本ではなく、同じ非保有国のオーストリアだったと説明。米国の「核の傘」の下で核抑止力に頼る日本政府の平和外交の限界を説いた。

 対する政府は首相のアクション・プランのうち、核兵器不使用の継続や核兵器数の減少傾向維持が最終文書案に残るなど「わが国の考えや主張が多くの国から支持・評価を得た」(林芳正外相)と成果を強調する。だが、核兵器の用途を縛る「先制不使用」宣言への賛成を表明しないなど根本姿勢は変わらなかった。

交渉 急きょ代役

 会議に臨む政府の態勢にも疑問符がついた。各国との交渉を広島の被爆2世で核軍縮・不拡散問題を担う寺田稔前首相補佐官に託していたが、交渉がヤマ場に差しかかる8月10日の内閣改造で総務相に起用した。

 首相と同じ自民党派閥・宏池会に属し、当選6回の寺田氏の登用は「派閥の順送り人事」との見方もある。代役として武井俊輔外務副大臣を急きょ派遣したが、首相に近いベテラン議員でさえ「会期中は寺田氏に継続して任せるべきだった。首相の本気度が見えない」と批判した。

 いずれも広島市である11月の国際賢人会議や来年5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)を控え、首相はどう「核なき世界」に歩むのか。再検討会議で核兵器廃絶は人類の「責任」と訴えた日本被団協の和田征子事務局次長(78)は、1970年のNPT発効から50年余り成果が出ぬ現実に「NPT体制は機能不全に陥った」と断じる。

 望みを託すのは核兵器禁止条約だ。昨年1月に発効し、批准国は66カ国・地域に広がった。和田さんは、核兵器による威嚇を違法とする国際法規こそロシアの言動を非難する存在だとし「これまで以上に日本政府へ参加を働きかける」と力を込める。失意の底にある被爆者が早くも前を向く姿勢を首相はどう受け止めるのか。被爆地は注視している。(樋口浩二)

(2022年8月31日朝刊掲載)

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