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被服支廠利活用 議論進む 平和発信に期待/採算面は制約も

広島県有識者懇やワークショップ

 広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」を巡り、広島県の有識者懇談会とワークショップで多様な利活用策が提案されている。県のまとめでは28案が浮上しており、来年3月までに有識者懇談会が最終案をまとめる予定。平和発信の役割を願う被爆者の思いや採算性も考慮する必要があり、絞り込みは難しい作業になりそうだ。(河野揚)

 県庁で27日にあったワークショップには、被服支廠の近隣住民や高校生たち25人が参加した。「世界遺産を目指したらいい」「入場料を取るべきだ」。利活用策の実現に必要なことをテーマに話し合った。

 県は昨年11月に大学教授や学芸員たちでつくる有識者懇談会、今年1月に市民でつくるワークショップをそれぞれ設置。いずれも既に4回開き、利活用のアイデアを出してきた。

 平和などをテーマにした図書館▽住民が立ち寄りやすいマルシェ▽平和や歴史を伝える資料館・博物館▽服を作っていた歴史を伝承するファッション博物館▽国内外の来訪者が県民と交流できる宿泊施設…。提案は幅広いジャンルに及ぶ。

 有識者懇談会は今後、ワークショップ参加者とも意見交換し、方向性をまとめる。懇談会会長の岡田昌彰・近畿大教授(景観工学)は「提案を分類、整理をして議論したい」と話す。

 ただ、利活用には財源確保や収益面で制約もある。全4棟を全面活用する場合、耐震化と内装工事には約70億円かかる見込み。さらに毎年の維持費もあり、一定の収入が必要との指摘もある。

 県は懇談会の結論を基に国や広島市と協議して利活用策を検討する。ワークショップに参加する市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」の多賀俊介副代表(72)は「原爆で多くの人が被服支廠で亡くなった。せめて1棟は平和関係の資料館か博物館にしてほしい」と願う。

旧陸軍被服支廠
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年完成。爆心地から南東2・7キロにあり、被爆者の臨時救護所にもなった。戦後は13棟のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県と国は耐震工事をする方針を決め、全棟が事実上保存される見通しになった。現在は耐震工事に向けて実施設計を進めている。

(2022年8月31日朝刊掲載)

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