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連載・特集

NPT再検討会議2022 決裂再び <3> 小国の訴え

団結強め 核大国を批判

被害を危惧 廃絶迫る

 「時間の無駄だ。何日もここに座って、兵器会社に資するような議論を続けるのはごめんだ」。8月22日、米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の全体会合で、太平洋の島国キリバスのテブロロ・シト国連大使が、核軍縮に手をこまねく核兵器保有国を皮肉り、痛烈に批判した。

 米英の核実験による住民の健康や環境への被害を訴えるキリバスは人口が広島市の約10分の1の約12万人、面積は730平方キロ。国内総生産(GDP)も世界で低い水準にある。そんな「とても小さな国」を自認する元大統領のシト大使が、核兵器を持つ大国におののくことなく、舌鋒(ぜっぽう)鋭く核兵器廃絶を迫る姿は会議を通じて際立っていた。

意見交換重ねる

 「核兵器のない世界」へ議論を引っ張っているのは保有五大国でも、核抑止力に依存する国でもない。2015年の前回会議の決裂を経て、核兵器禁止条約制定へ旗を振ったのはオーストリアやコスタリカだった。現在批准する66カ国・地域の多くは中南米やアジア、アフリカの小国だ。

 今回の会議の会期中も、禁止条約賛同国の政府代表団が議場内外で、頻繁に意見交換を重ねていた。国連本部で関連行事も開催。有識者や各国の非政府組織(NGO)の関係者との討議を通じて核兵器の非人道性や廃絶の必要性を確認し、団結を強めた。

 「核兵器がもたらす壊滅的な影響は、世界の市民に及ぶ。人類の生存、環境、社会経済、将来世代の健康にも深く関わる」。22日にコスタリカが代表して読み上げた核兵器の非人道性を巡る共同声明には、小国の危機感が詰め込まれていた。発表後、賛同国の政府代表たちは満足そうな笑みを浮かべ、NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のメンバーたちはツイッターで続々と賛意を示した。

 核超大国による核戦争がひとたび起きれば、当事国だけでなく、周辺の小国も巻き込まれ被害が及ぶ―。その可能性を排除するため、核兵器を廃絶しなければいけないという使命感が小国を駆り立ててきた。

軍縮の内容 後退

 一方で、大国を中心に国際社会の潮流が決まる現実がある。再検討会議でも終盤は、小グループで水面下の会合を重ね、最終文書案を精査。改定を重ねるたびに、保有国の意をくむように核軍縮の内容が後退した。禁止条約は発効など事実関係の記載にとどめ、「禁止条約とNPTは補い合う関係」とうたった6月の第1回締約国会議の「宣言」と「行動計画」の採択に触れた文言も削られた。

 「一歩進んだかと思えば、二歩後退だ」「NPT体制にとどまる意味はないのではないか」…。会期後半、こう漏らす小国の外交官もいた。

 最終日の8月26日の全体会合。発言したオーストリア外務省のクメント軍縮局長は「NPTは核軍縮の前進にほとんど役立っていない」と断じ、「核兵器のない世界」へ理論と行動で非保有国をリードする姿勢を強調した。前回は米国、今回はロシアが反対し、2回連続で決裂した。核超大国がエゴを押し通すほどにNPT体制の維持は難しくなる。(小林可奈)

(2022年9月1日朝刊掲載)

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