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社説・コラム

天風録 『引き継がれる大和魂』

 アフガニスタンで草の根支援に半生をささげた中村哲さんが生前、のけぞって頭をかくのを見たことがある。島根の高校で講演後、1人の生徒に「哲先生は侍だ」と持ち上げられ、「その大和魂はどこから」と質問を受けた▲キリスト者として答えにくかったはずだが、ごまかさなかった。「目の前で困っている人を見捨てるわけにいかない」。そんな日々のたまものがハンセン病治療であり、砂漠地帯を緑の大地に変えた用水路建設だろう▲この人も「大和魂」の持ち主と見える。ベトナムを足場に、手弁当で治療を続ける眼科医の服部匡志(ただし)さん。20年間に約2万人を失明から救ってきた。哲先生も授けられた「アジアのノーベル賞」マグサイサイ賞に決まった▲「貧しい患者さんが手術を受けられず、失明している」。学会で出会ったベトナム人医師の嘆きが一肌脱ぐきっかけに。早世した父の教え「人のために生きろ」も背中を押した。日本で稼いでは無償治療に充ててきた▲2人は、若者への助言も似通う。「善かれと思えば、真っすぐやってほしい。やり直せるのが若さの特権」。服部さんの講演を聴き、現場を訪ねてきた人の輪に山口大医学部生もいると聞く。

(2022年9月2日朝刊掲載)

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