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「異郷の記憶」刻む怒り ヒロシマ平和映画祭 きょう開幕

 ベトナム戦争末期の激戦下に現地ロケを敢行した映画をはじめ、社会性の高い異色作を集めた第5回ヒロシマ平和映画祭が6~15日、広島市内の9会場で開かれる。テーマは「異郷の記憶」。原爆など核問題に目を向けた作品に加え、戦時下の北海道での強制労働、ルワンダでの大量虐殺なども扱う多彩なラインアップだ。(道面雅量)

「ナンバーテン-」 ベトナム激戦下でロケ

「笹の墓標」 強制労働 遺骨発掘追う

 2005年から隔年で開いている映画祭。市民有志の実行委員会が、広島市立大の社会連携プロジェクトと共同で開く。

 約20本の上映作のうち、注目作の一つが「ナンバーテンブルース さらばサイゴン」(長田紀生監督)。1974年末から75年春にかけ、首都陥落が迫る当時の南ベトナムでロケした劇映画だ。資金難などで配給のめどが立たなかったが、近年、見つかったフィルムを関係者が再編集し、日の目を見た。

 羽振りのいい日本人商社マンが現地で殺人を犯してしまい、戦火に紛れて国外脱出を図る物語。「ナンバーテン」は「最低野郎」といった意味で、娯楽性の中にも日本人のおごりが批評される。

 全5章、計9時間にわたる長編ドキュメンタリーの上映も。影山あさ子、藤本幸久の両監督による「笹(ささ)の墓標」。戦時中、北海道のダムや鉄道工事、炭鉱などで過酷な労働を強いられ、命を落とした人々の歴史に向き合う新作だ。

 現場付近に埋められた朝鮮半島出身者の遺骨を発掘し、遺族に返す活動が97年以来、日本と韓国、在日コリアンの若い世代によって続く。映画はその長年の記録。参加者同士の衝突もありのままに映す。

 核問題を扱う作品は、福島第1原発事故の後で何が起こっているかを追った米国出身のイアン・トーマス・アッシュ監督の「A2―B―C」など。60年代のヒロシマに向き合った尾道市出身の森弘太監督の特集もある。ルワンダから証言者を招き、民族対立を背景に94年に起きた虐殺について映像を交えて考える集いもある。

 「日常を破壊し、故郷さえ異郷にしてしまうものへの怒りがテーマ」と、実行委代表で映像作家の青原さとしさん(51)=広島市安佐南区。自らが今、東日本大震災の被災地で撮影中の作品「土徳流離」も一部を公開する。

 料金は千円が基本で、通し券や無料作品もある。実行委Tel090(3542)4052。ホームページはhttp://hpff2013.chobi.net/

≪第5回ヒロシマ平和映画祭プログラム≫

●テーマ                   主な上映作品                    日程  会場
●オープニング 故郷から異郷へ   「いのちの詩」                     6日 広島大東千田キャンパス
                        「ヒロシマ1966」
                        「ナンバーテンブルース」
●森弘太監督特集            「河 あの裏切りが重く」               7日 シネツイン新天地
                        「小川原湖」                       7日 まちづくり市民交流プラザ
                        「下北核半島からの報告」
●ルワンダからの映画を考える    ゲストによるトークセッション             7日 まちづくり市民交流プラザ
                        「告白」
                        「未来への希望」
●「笹の墓標」               全編(5章)一挙上映                 8日 広島朝鮮学園(東区山根町)
●山城知佳子ワークショップ      「肉屋の女」                       9日 広島市立大講堂
                       「あなたの声は私の喉を通った」
●近代を問う               「水俣病 その20年」                 12日 アビエルト(安佐南区八木)
                       「原発切抜帖」
●異郷・原発列島            「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」 13日 横川シネマ
                       「A2-B-C」
●「X年後」のもたらしたもの      「放射線を浴びたX年後」                14日 横川シネマ
                       監督たちによるトークセッション             14日 サテライトキャンパスひろしま(県民文化センター内)
●異郷・東日本大震災 光と闇    「断章/大槌の風景」                  15日 真光寺(中区十日市町)
                       「東北朝鮮学校の記録」
                       「土徳流離」

(2013年12月6日朝刊掲載)

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