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平和願う砂紋 米で広がる輪 被爆者・田中稔子さんデザインの枯れ山水

21日「国際平和デー」に動画配信

 壁面七宝作家で被爆者の田中稔子さん(83)=広島市東区=が平和を願ってデザインした枯れ山水の文様を、米国各地の日本庭園が砂紋引きする作業を進めている。その様子などを事前収録し、北米日本庭園協会(NAJGA、米オレゴン州)の主催行事「ガーデンズ・フォー・ピース」(平和のための庭)の一環として国連「国際平和デー」の21日に動画配信する。昨年に続く開催で、参加の輪は広がっている。(金崎由美)

 フォートワース植物園(テキサス州)や、サンディエゴ日本友好庭園(カリフォルニア州)など17庭園。枯れ山水がない庭園を含め、行事に参加するのは米国とカナダ、スペインの計35カ所になる見通しだ。多くが、21日前後に交流行事も催すという。

 8月中旬、田中さんは自宅からオンラインでNAJGAのマリサ・ロドリゲス局長に語り掛けた。「世界に親しい友人をたくさんつくってください。国同士で問題が起きても、友人の頭上に爆弾を落とすことは、ちゅうちょするはず」。NAJGA側で録画し、公開動画の一部になる予定だ。

 国際平和デーの砂紋引きはフロリダ大ハーン美術館(フロリダ州)のマーティン・マッケラーさんの発案で、2020年に5庭園の有志が初めて実施した。昨年、NAJGAの主催行事となり、計14庭園が参加した。今年はさらに増えた。

 田中さんが砂紋のデザインに取り組んだのは19年秋。中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトで英訳記事を読んだマッケラーさんから「私たちにできる平和活動をしたい」と協力を請われたのがきっかけだ。「生き残った者の責務」として被爆証言を続ける田中さんは、日展に16回入選した実績を持つ作家でもある。フロリダ大の学生が手作りした熊手形の鉛筆が届くと、「へ」「い」「○(わ)」を表す複数のデザイン案を紙に描き、活用を託した。

 「今年も開催されるとは本当にありがたい」。田中さんは胸を熱くしている。マッケラーさんは今年2月、膵臓(すいぞう)がんで逝去。NAJGAは「ロシアがウクライナに侵攻した今、なおさら意義がある」と継続を決めた。「彼の平和への思いを受け継いでいく。日本の庭園とも連携したい」とロドリゲスさんは話す。

 インディアナ大・パデュー大インディアナポリス校(IUPUI、インディアナ州)は、枯れ山水がある隣接校のマリアン大と共に参加する。広島大大学院で人類学の博士号を取得し、現在IUPUIで日本文化の授業を持つ田川泉さん(57)の提案だ。準備の都合上、10月7日に砂紋引きなどの学生行事を共催する。

 「米国では被爆体験について十分知られていない」と田川さん。原爆投下の是非や核兵器を巡る考えもさまざまだ。この機会を、単なるシンパシー(同情)ではなく、立場の違う他者の痛みや考え方を理解するエンパシー(共感)を育てる試みの一つと位置付ける。

 田中さんも「日本庭園の美は、平和であってこそ。自然を愛する共通の思いを若い世代が世界に広げ、核兵器廃絶への一歩につなげてほしい」と願う。配信は日本時間22日午前0時開始。https://najga.org/gardensforpeace/ で視聴申し込みができる。

(2022年9月5日朝刊掲載)

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