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社説・コラム

社説 国連ウイグル報告書 中国は人権侵害やめよ

 中国政府による少数民族ウイグル族弾圧に関し、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は先月末、報告書を発表した。

 職業訓練の名目で新疆ウイグル自治区内の施設に収容し、差別的な身柄拘束があったと指摘。対テロ戦略の名の下で「深刻な人権侵害」が起きていると断じた。中国政府に対し、恣意(しい)的な拘束を受けている全ての人の解放などを勧告した。

 中国は「報告書は偽情報のごった煮だ」などと色をなして反発している。もし事実と違うと言い張るのであれば、なぜ国連をはじめ第三者機関を受け入れて、自由に現地調査をさせないのか。それを認めないで報告書を批判しても説得力はない。国際社会に広がる不信感は拭い去れないことを肝に銘じなければならない。

 報告書が明らかにした収容施設の実態は、中国政府の言う「教育」施設とは程遠い。収容経験者への聞き取りでは「自由に退所したり、一時帰宅を許されたりした者は一人もいなかった」という。銃や警棒で武装した者が常駐し、自身の言語や宗教行為が禁じられた上、愛国的な歌を毎日、大声で歌うよう強制されていた。警棒による殴打や長時間の独房監禁もあった。

 ところが、中国政府は実態を隠そうとしてきた。外国代表団の訪問前には「毎日、家に帰れる」「食事も問題ない」と答えるよう指示されたという。

 こうしたウイグル族への迫害は近年、国際社会の関心を集めてきた。国連人種差別撤廃委員会は2018年、推定数万人から100万人以上が不当拘束されたとの報告が寄せられたとして、懸念を示している。

 米国務省は21年発表の人権報告書で、100万人以上が強制収容され、不妊手術や強制労働を強いられており、さらに他の200万人が「再教育」訓練を受けたと指摘していた。

 今年5月には、新疆の警察のコンピューターから流出したという大量の内部文書が報じられた。共産党幹部の発言内容などを記した文書を、ウイグル専門家が入手し、英BBCなどを通じて世界各国で公開した。

 党幹部が、国外から戻ったウイグル族を犯罪者として例外なく拘束するよう指示していた。逃げようとしたら射殺するよう命じてもいた。驚くほかない。

 中国は、これについても「反中勢力の中傷だ」などと否定した。しかし元収容者の証言を裏付けるような施設内部の写真や3千人近い収容者の顔写真が出てきたのである。いつまで、しらを切るつもりだろうか。

 ウイグル自治区で核実験が40回以上も繰り返されたことを忘れてはならない。ロプノル核実験場の周辺住民には、白血病や悪性リンパ腫、肺がんが多かったことを現地出身の元医師がかつて、本紙取材に証言している。

 少数民族の住む場所を実験場に選んだこと自体、差別にほかならない。しかも中国は健康被害を認めず、実態も明らかにしていない。治療や補償もせず放置しており、一層罪深い。

 中国は、今回の報告書が自分たちに都合の悪い中身になることが分かっていたのだろう。公表に反対するよう他国にも呼びかけていた。調査結果が明らかになった以上、重く受け止める必要がある。勧告に従い、人権侵害は直ちにやめるべきだ。

(2022年9月5日朝刊掲載)

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