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連載・特集

NPT再検討会議2022 決裂再び <4> ジェンダー

多様な性の視点 脚光

言及巡り「文明の衝突」

 「文明の衝突だ」。米ニューヨークの国連本部での核拡散防止条約(NPT)再検討会議でジェンダーを巡る対立が続いていた8月半ば、ある外交筋がこぼした。男性中心に回ってきた国際政治や外交にあって、多様な性の視点が重要だという主張が従来になく活気づく一方、拒否反応も強い現状を言い当てていた。

 「核軍縮のプロセスは、あらゆる女性やマイノリティーを含め、多様性や公平性を視野に入れて進めなければならない」。会議序盤の8月4日の一般討論演説で、カナダの代表が「ジェンダーの視点」の必要性をうたう共同声明を力強く発表した。

欧米や日本賛同

 核兵器が使われれば、広島、長崎の惨禍が示すように多くの市民が犠牲になるだけに、声明は核のリスクや対策を考える上で、性差や経済的地位などさまざまな要素を踏まえる必要性を指摘。「ジェンダーを巡る多様性を向上し、その視点を核政策立案に取り入れるのはNPTの運用を強化する」と強調した。

 欧米を中心に日本を含むアジアや中南米などの67カ国が賛同。第1委員会(核軍縮)の12日の最終文書素案には「ジェンダーの視点」が含まれた。

 だが一転、16日の改定で削られる。「時代に逆行している」「性の多様性への認識が欠けている」…。17日の討議では各国から批判が噴出。オランダは「ジェンダーはタブーか」と問いただし、議長が弁明する場面も。片や削除に賛同のイラクは「会議はジェンダーや多様性の見解について答える場ではない」と主張。他の国からも擁護する声が上がり、議論は紛糾した。

 複数の外交筋によると、こうした応酬は会議終盤の非公開会合でも続いた。宗教上の要素が絡み、イスラム圏のほか欧州の一部もジェンダーへの言及に抵抗したという。性的マイノリティーも含む言葉である点も背景にあったとみられる。

働きかけで明記

 結局、最終文書案には「NPTの履行に関するあらゆる側面に、ジェンダーの視点をさらに取り入れてほしいという加盟国の要請に留意した」などの表現が盛り込まれた。アイルランドやカナダなど熱心な国が共同で作業文書を出したり、国連本部で関連行事を開いたりして各国に表裏で働きかけた成果が表れた。

 国連軍縮研究所が発表した研究では、2015年の前回会議の各国・地域の政府代表団で、女性が団長を務めていた割合は2割に満たなかった。今回は主要3委員会のうち、二つは女性が議長を務めたが「女性外交官はまだ少ない」との見方が大勢だ。日本政府の代表団も男性が目立った。

 最終文書案は採択されなかったが、最終日の26日の全体会合で、アイルランドの代表は「ジェンダーの問題を当初から考慮したのは今回の再検討会議を巡る期間が初めて。この作業を基に前進しなければならない」と前を向いた。

 核兵器保有五大国が力を握り、核軍縮を進められないNPT体制は、多様性の認識を欠き、旧態依然とした社会に通じる。ジェンダーの視点が「核兵器のない世界」への進展へ、どう好影響をもたらすのか。「文明の衝突」の先にある次の展開が重要になる。(小林可奈)

(2022年9月3日朝刊掲載)

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