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[ヒロシマの空白 街並み再現] 旧細工町で購入 げたを寄贈 被爆者の松本さん 原爆資料館 公開へ

爆心直下の街や息遣い伝える貴重な資料

 原爆の爆心直下に当たる広島市の旧細工町で購入したげたを、持ち主の松本幸子さん(97)=南区=が6日、原爆資料館(中区)に寄贈した。被爆前の街のたたずまいや人々の息遣いを伝える貴重な資料。同館は、細工町などをテーマに今月から開く企画展に加える。(森田裕美)

 げたは長さ23センチほど。鮮やかなピンクの鼻緒が、グラデーションの美しい鹿の子絞りの爪皮で覆われている。松本さんが女学校を卒業した後の18歳の頃、細工町にあった「丸米履物」で、母親に買ってもらった。げた底に「○米」と刻印され、裏に「廣島(ひろしま) 細工町」などと書かれたシールが残る。

 松本さんの生家は細工町に隣接する旧猿楽町にあり、金融業を営んでいた。「このげたが気に入っていて、よく履いて街を歩いた」と記憶する。

 しかし原爆で一帯は壊滅。履物店を営んでいた一家は4人が消息不明のままだ。松本さんは終戦の1年ほど前、家族で爆心地から約1・7キロの二葉の里(現東区)へ転居しており、被爆時は顔や手足にやけどを負ったものの、一命は取り留めた。お気に入りのげたも焼失することなく残った。

 戦後、松本さんは南区へ引っ越し。ことし7月、長女の岡悦子さん(73)が、押し入れを整理中、奥の方に眠るげたを見つけた。

 この日、松本さんは岡さんと同館を訪れ、落葉裕信主任学芸員に手渡した。「あの日、猿楽町にあったら消えてなくなっていたはず。たくさんの人に見てもらいたい」と話した。

(2022年9月7日朝刊掲載)

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