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被爆を免れた旧版海図 父の遺品 状態良くDB化へ 広島の小松さん、海保に29点寄贈

 広島市安佐南区の小松寛さん(80)が、「軍所属の輸送船長だった」という父茂さんの遺品である旧版海図29点を、海上保安大学校(呉市)を通じて海上保安庁に寄贈した。茂さんの自宅は原爆で焼失したが、海図は難を逃れたという。当時の瀬戸内海の様子などが詳しく分かる資料で、6日、感謝状が贈られた。

 松山港や徳山港、来島海峡など瀬戸内海の海図のほか、新潟港や大阪港、南は赤道を越えてニューギニア西部のものもある。1920年から43年にかけて旧海軍が作製。水深を示す数字が図面を埋め、茂さんがマーカーで書き込んだとみられる赤い印なども所々にある。

 45年8月の原爆被災当時、小松さんは母や兄と沼田(現広島市安佐南区)に疎開していた。茂さんは勤務先の宇品(南区)で被爆し、大手町(中区)にあった自宅は焼失したという。海図が当時どこにあったかや、たどった経路は不明だが、再建された大手町の家で5年ほど前、新聞紙に巻かれた状態で小松さんが見つけた。「父が大事にしていたのだろう」と、手作りした木箱で保管していたが、趣味のカヌーで同大学校の江口満学校長と知り合い、寄贈を決めた。

 同庁によると、保存状態が極めて良く、鮮明な画像でのデータベース(DB)化に役立つという。江口学校長は「海図には自分が通った航路などを書き込む。船乗りにとって思い入れの強いもので、手書きの部分も含めて貴重」と感謝した。小松さんは「懐かしい父の字も書き込まれていた。歴史的資料として役立つということで、父も喜んでいるでしょう」と海図を見つめた。(小林旦地)

(2022年9月7日朝刊掲載)

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