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地中の軍施設 埋蔵文化財に 広島市、52エリア想定 被爆の痕跡 保存を強化

 広島市は旧日本軍の関連施設跡などが地中から見つかった場合、「埋蔵文化財」として扱うことを決めた。これまで近現代以降の遺跡はあまり重要視されず、開発によって損壊の恐れがあった。被爆の痕跡を残す重要な史跡として保存の姿勢を強める。戦前・戦中の戦争遺跡を文化財に規定するのは全国的に珍しい。(編集委員・東海右佐衛門直柄)

 7月上旬に市埋蔵文化財取扱基準を変更し、「明治期以降の主要な軍関係の機関・施設跡」を追加した。軍都としての歴史から、市内には原爆被害に遭った軍関連施設の一部が地中に残る可能性がある。旧陸軍の被服支廠(ししょう)(南区)、糧秣(りょうまつ)支廠(同)、兵器補給廠(同)の敷地や、似島の馬匹(ばひつ)検疫所(同)跡など52エリアの地中を想定する。

 2015~17年の原爆資料館本館(中区)の耐震改修工事に伴う調査では、旧中島地区の町並みや黒焦げのしゃもじなどが発掘され、原爆で瞬時に失われた暮らしが確認された。

 21年にはサッカースタジアム建設地(同)でも旧陸軍輸送部隊「中国軍管区輜重(しちょう)兵補充隊(輜重隊)」施設の被爆遺構が見つかった。しかし遺構の一部切り取り保存などにとどまり、日本考古学協会(東京)から批判の声が上がっていた。

 今後、対象エリアで住宅やビルなどの建設が計画された場合、まず市は、広さや土地利用の経緯などを調査。文化財が地中で壊されずに残る可能性がある場合は市が試掘調査する。文化財が確認されれば開発事業者が費用を負担して発掘調査に移る。その後、調査情報を報告書などに残す「記録保存」の後に開発が進むケースもある。史跡として価値が極めて高い場合、市は工事の中断や全面保存を要請することも検討する。

 中長期的に市は、軍関連施設だけでなく、教育施設など幅広い被爆遺構についても保存を検討。原爆被害を後世に伝えたい考えだ。

遺構の継承へ専門員育成を

広島大の藤野次史名誉教授(考古学)の話
 文化庁の通知で近現代遺跡について発掘・保存するかどうかの運用は自治体に任されており、全国で多くの戦争遺跡が破壊されてきた。「近現代以降の遺跡も保存に値する」という今回の広島市の姿勢は重要だ。サッカースタジアムの建設地で貴重な遺跡が発見されたにもかかわらず、保存が不十分として市に批判が集まったことが影響しているのだろう。今後、被爆遺構などを保存・継承していくため専門員の育成を強化するなどの対応が求められる。

(2022年9月7日朝刊掲載)

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