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社説・コラム

社説 ザポロジエ原発 戦闘地域から切り離せ

 一刻も早く、ウクライナ南部のザポロジエ原発の安全を確保しなければならない。国際原子力機関(IAEA)が現地調査の報告書を公表した。ロシア軍の占拠と、砲撃により核燃料や放射性廃棄物を貯蔵する建物が損傷した実態を指摘した。

 ロシアとウクライナは互いに相手の仕業だと非難し合う。IAEAは攻撃者を特定していない。どちらだろうが、意図しようがしまいが、ひとたび放射性物質が大量に放出する事態を引き起こせば、欧州もロシアも惨事は免れない。何をおいても原子力事故を避ける必要がある。

 IAEAが提案したように、原発やその周辺で軍事行動を一切しない「安全管理区域」の設定を急ぐべきだ。

 ロシア軍が敷地内に軍用車両を持ち込み、駐留していると確認できた。そもそもウクライナ侵攻自体が国際法違反である。極まる暴挙は許し難い。

 原子炉6基が並ぶ欧州最大の原発である。ロシアが侵攻直後の今年3月に制圧し、8月から砲撃が相次ぐ状態に陥った。IAEAの報告書には原子炉近くにある、放射性廃棄物を保管する建物の屋根に穴が開いた写真も載った。これまで放射性物質の拡散がないのは不幸中の幸いとしか言いようがない。

 原子炉はむろん、核燃料を保管する建物の損傷は重大な懸念だが、恐れはそれだけではない。先日には砲撃による火災で、唯一稼働する6号機が外部の送電網から切り離された。原子炉を冷却できなくなれば核燃料の温度は上昇し、最悪、メルトダウン(炉心溶融)につながりかねない。8月下旬にも2度、電力供給が中断された。

 原発の運転や、作業員を被曝(ひばく)させない安全管理には平時でさえ慎重さが求められる。管理するウクライナ人職員が一部区域に自由に立ち入りできない実態をIAEAは指摘。「強いストレスや圧力」にさらされているとした。IAEAの警告通り「人為的ミス」が起こる可能性が高まっていよう。

 このままでは事故を起こしたチェルノブイリ原発や福島第1原発の二の舞になりかねない。IAEAのグロッシ事務局長は国連安全保障理事会でのオンライン報告で今回は「未然に防ぐ機会がある」と訴えた。「核の番人」のIAEAが調査し、専門家2人を常駐させたのは前進とはいえ、入り口に過ぎない。

 予断を許さない現状は変わっていない。国際社会は、ロシアとウクライナ両国が安全管理区域の設定に合意するよう働き掛けを強めるべきだ。

 先の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で最終文書を採択できなかったのは、原発の管理をウクライナに戻すよう促す記述にロシアが反発したのが一因だった。これに先立ち、欧州連合(EU)の全加盟国と日米など42カ国は、ロシアに原発からの即時撤退を迫る共同声明をまとめていた。

 ロシアが原発を「核の盾」とし、ウクライナを支援する欧米に恐怖心を与える狙いなら、言語道断だ。電力源をコントロールし、ウクライナに圧力をかける意図も透ける。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は改めて非武装化を主張した。ロシアは拒否する姿勢を撤回して同意し、直ちに原発とその周辺から撤退すべきだ。

(2022年9月8日朝刊掲載)

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