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連載・特集

『生きて』 NPO法人「食べて語ろう会」理事長 中本忠子さん(1934年~) <8> 親も丸抱え

家庭に問題 放っておけず

 基町アパートの自宅で子どもたちに食事を食べさせ始めた頃は、ずいぶん近所からのクレームがあった。うちに来る子のほとんどが非行性を帯びた子。「あんな子たちを集めて迷惑だ」って。田村さんと「やめるわけにいかん」ってかなり悩んだ。それで、近所の人の理解を得るために「自治会役員をやろう」って話したん。忙しいから大変だったけど、自治会で子どもたちのことを話すうちにみなさん分かってくれてね。私の帰りが遅い時には子どもを家に入れてお茶やパンを出してくれることもあったんよ。

  ≪自宅に集まる子どもたちは、家庭に問題を抱えるケースも多かった≫

 うちが関わった子どもの親は暴力団関係者や薬物依存の人もおった。虐待を受けて育っている子もいて、ご飯を食べる時も姿勢が悪いし、箸の正しい持ち方も知らんの。トイレでお尻を拭くことや、ティッシュで鼻をかむことができん子もおる。

 そういう時は、うちは分かりやすく損得で教えるんよ。「箸の持ち方が上手になったら、外食に連れていっちゃるよ」って話したら、3日で直る。ただ、家に帰ったら元に戻る。親の協力が必要なんだけど、そこらが難しい。ネグレクト(育児放棄)の親も多いからね。私に対しても「子どものことより私に関わって」という感じのことを言う。親も放っておけんのよ。

 ≪関わった子どもが親になり、2代にわたって面倒を見るケースもある≫

 昨年、ある10代の女の子が「最近おなかが出てきて、中で何かが動いとる」って電話してきて、妊娠が分かった。その子の母親も他のきょうだいもよく知っとる子。遠方におるから心配で、妊娠のことを母親に伝えたんだけど「放っときゃいいんよね」って返ってきたん。赤ちゃんが生まれて、おばあちゃんになっても全然関心がないようでね。私は、出産した女の子と赤ちゃんがすごく気になる。知人に頼んで地元の子育て支援団体の人に様子を見に行ってもらってやっと安心した。今は子どもを保育園に入れて働いて、元気にしとるみたい。

 大きくなった子どもに、お金を無心するような親もおる。更生のためには親と離れて暮らす方がいいこともあるんじゃないかね。うちは、子どもが幸せになることが一番大事じゃと思うんよ。そのためにできることは何でもするよ。

(2022年9月8日朝刊掲載)

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