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[考 国葬] フリージャーナリスト 江川紹子氏 教会との関わり解明を

 国葬の是非を考える上で大事なのは、安倍晋三元首相と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係だ。多くの被害者を出してきたカルト集団である旧統一教会と与野党の国会議員が、不透明な状態で協力し合っていた問題が明らかになっており、安倍氏は重要な役割を果たしていた可能性がある。自民党総裁として選挙の票の差配に関わっていたという話も取り沙汰されている。

 安倍氏は銃撃事件の被害者だが、政治家としての評価は旧統一教会問題などネガティブな事実も含めた多角的な検証によって見えてくる。首相まで務めた政治家の評価は、とりわけ慎重さが必要だ。非業の死であるにしても、手心を加えて国葬に付してはいけない。

 記者としてカルトの実態を追いかけてきた。多くの若者が洗脳されたオウム真理教の取材では私自身、ホスゲンという毒ガスで襲撃されたこともあった。旧統一教会の問題でクローズアップされた霊感商法や法外な献金のほかに、信者の子ども「カルト2世」の問題も深刻だ。子どもが親の価値観に違和感を持ったとしても、未成年では経済的な自立は難しい。悩みを抱え、自殺を図った人もいる。

 肝心な旧統一教会と安倍氏の関係性が定かでない段階で、岸田文雄首相はあっさりと国葬実施を決めてしまった。参院選後の臨時国会で、十分に時間を割いて説明し、各党の質疑にも応じるべきだった。

 記者会見などを通じて多くの政権を見てきたが、国民が岸田首相に期待していたのは反対意見にも耳を傾け、納得感を与えてくれる姿勢だったと思う。売りにした「聞く力」はかすんで話を聞かない部分が目立ち、国民には失望が広がっているように映る。反対する人を振り捨て、決めたことに突っ走る安倍・菅政権との違いが見えなくなっている。

 政府が国葬後に公表するとしていた警備や海外要人の接遇の費用を一転して示したのは当然といえる。首相は国民の批判を気にしたのだろう。忘れてならないのは、投じられる税金は国葬に反対する人たちから徴収された分も含んでいることだ。

 首相が考える国葬とは何なのか。本来は国民に故人の死を悼んでもらうものだが、今回は広く弔意を呼びかけないという。これも批判を受けてだろうが、賛同したい人だけ弔意を示してくださいというのであれば、それはもはや国葬ではない。

 旧統一教会との接点を巡る自民党の調査対象は、現職議員だけでは不十分だ。安倍氏と教会側との関わりを解明する必要がある。(聞き手は口元惇矢)

えがわ・しょうこ
 58年東京都生まれ。早稲田大政治経済学部卒。神奈川新聞記者を経て88年フリージャーナリスト。オウム真理教事件では教団に引き込まれる若者たちを追跡取材した。20年神奈川大国際日本学部の特任教授。

(2022年9月10日朝刊掲載)

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