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連載・特集

『生きて』 NPO法人「食べて語ろう会」理事長 中本忠子さん(1934年~) <10> 保護司

白紙の心で相手を見る

  ≪2010年11月に保護司を引退した≫

 30年間で担当したのは計約300人。子どもだけじゃなく、大人も多いよ。誰であってもその人と接する前、保護観察の書類や育成歴を一切見ないのが私の流儀。過去じゃなく、今日からをどうしていくかが大事じゃから。白紙の心で相手を見る。そうすると人間関係が築けて自然と過去の事件のことも話してくれるようになる。

 暴力団関係者と薬物犯罪をした人が多かったね。暴力団って聞いても私には恐怖心がない。暴力団事務所にも平気で行ける。自分でも不思議。こういう道に行ったのは気の毒じゃな、くらいにしか思わんのよ。みんな自分の気持ちを話す時には涙を流すし、愚痴も言う。薬物をしとる人はうそをつくことも多いけど、薬がそうさせてるんだから相手を信じさえすればいいんじゃない。

 ≪11年、食べて語ろう会の活動がNHKのドキュメンタリー番組で放送された≫

 1年半くらい密着取材された。その頃はもう、集まる子どもが多く、取材を気にしとる暇がないくらい忙しかった。でも放送で活動が広く知られ、全国から支援が届くようになった。数々の表彰を受け、著名人とも知り合った。

 15年に社会貢献支援財団の社会貢献者表彰で出会ったのが作家の吉永みち子さん。テレビに出とる時はきれいな格好をしとるけど、普段は飾らない気さくな人。活動に共感してくれて親しくなった。今年の1月には食べて語ろう会主催の講演会で話してもらった。

 ≪注目を集める一方で、悔やんでも悔やみきれない出来事もあった≫

 忙しさと80歳近い年齢もあって、「帰る場所がない」という子どもたちなのに面倒を見きれないことがあった。その後、仲間内で殺人事件を引き起こし、1人が命を失ってしまった。あの時はスタッフと一緒に泣いた。今でも自分に腹が立ってかなわん。もしうちがもっと面倒を見ていたら、命を落とすことはなかったかもしれんって考える。長いこと活動していても後悔の連続。もうどうすることもできんのじゃけ、悔しいよね。

(2022年9月10日朝刊掲載)

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